ちょっと来て、ちょっと来て。 そのようにエルフさんから手招きをされ、古民家の奥へと向かう。 子供のころ過ごした家には独特の匂いが染み付いており、きしきしと音を立てる廊下、夕闇のうっすらと伸びる影と、どこもかしこも懐かしい。 すたすたと歩く黒猫はすっかり我が家きどりで、おすましした顔をこちらへ向けていた。しばらく歩くと、なにげない扉の前でエルフと黒猫の歩みは止まる。「……ここがどうしたの?」「しっ、声を小さくしてちょうだい。私たちの勘では、ここにいると思うの」 ここに何がいるのかな? 任務中のように真面目な顔でこちらを見上げてくるエルフと黒猫。そして古びた扉をみて、ぴんと浮かぶものがあった。「ああー……。なら静かにしないといけないね。僕が開けてあげたいところだけど、大人だから隠れてしまうかもしれないよ」「やっぱり駄目なのかしら。せっかく見つけたというのに」 しょんぼりとした顔をしているのは、とある物語の影響だろう。古民家の奥には不思議な生物がおり、そして物語を魅力的にしていたものだ。 涙を浮かべる少女の鼻先へ、ぴんと人差し指を押し付ける。「2人ならきっと大丈夫だよ。本当は子供じゃないけれど、実は彼らもそれほど頭がよく無いんだ。さ、静かにあけてごらん」 逡巡しつつ、どうやら決意をしたらしい。 こくりと頷くと扉へ手をかけ、そうっと音を立てないようにして開かれる。きい、い、とかすかなきしみ音を立て、現れたのは暗い物置だった。 がっかりした彼女らの背を押し、物置の中へと入れてあげる。そしてしゃがみこみ、内緒ごとを伝えるよう顔を近づけ囁きかけた。「さて、ここに秘密の通路があるとしたら興味はあるかな?」「あっ、あるわっ! うそうそ、どこにあるの?」 たったの一言で好奇心が思い切り刺激された顔をする。 2人は興味深々の表情で、とんとんと思わずその場で足踏みをしてしまった。 頑張ってと仕草で伝えると彼女たちの冒険は始まった。 棚を開け、壷を覗き込み、それからようやく猫はにゃあと鳴く。少女が振り返ると、階段状をしている箪笥の上にいる猫がいた。 乗ってもいいのかしらと少女は振り返り、僕は「どうぞどうぞ」と身振りを返す。 昔はこのような作りの家もあったらしい。天井裏へと通じる道のため、階段状の箪笥を用意していたのだ。