ラズベリーベルは、その大剣をも投げたのだ。 振りかぶり、振り下ろすモーションと同時に、大剣はまるでギロチンのように刃を半回転させてロスマンへと襲い掛かる。 ――間に合わない。 《金将剣術》が、間に合わない……!「馬鹿な!!」 ロスマンは即座にスキルをキャンセルし、回避しようと必死に体をねじり、しかしそれすら間に合わないと感じ、咄嗟に防御のため長剣を体の前に出した。 バキン! と、大きな音が鳴り、ロスマンは遥か後方へと吹き飛ばされる。「!?!?!?」 直後……全観客が、度肝を抜かれた。 そして、ラズベリーベルの「ここ」という呟きの意味を知る。 彼女が序盤に投擲した、七本の長剣。それらがまるで道しるべのように、ロスマンの吹き飛んだ先へと等間隔に配置されていたのだ。「なんッ!?」 着地、と同時に、ロスマンは長剣を踏み、バランスを崩す。 ダウン――その隙を、ラズベリーベルが逃すはずもない。 追撃のため全力疾走で間合いを詰め、インベントリから長剣を取り出し、《銀将剣術》をゴルフのように振り抜く。「ぐはっ!」 再び吹き飛ばされ、着地した先には、長剣。 またしても、ダウン。 そして、またしても、追撃。 またしても、ダウン。 またしても、追撃。 またしても、ダウン。 またしても、追撃。 またしても、またしても、またしても……。「……えげつねー」 出場者席のセカンドが、半笑いで呟いた。 着地点に特定アイテムが設置されている場合、ダウン判定となる。これは、その特性を存分に活かした“ハメ技”。 セカンドは、もう笑うしかなかった。 ラズベリーベルは、この一閃座戦の舞台で、元一閃座を相手に、見事ハメ技を成功させてしまったのだ。 だが、セカンドは呆れ笑いをしながらも、同時に、今すぐ立ち上がり「凄い!」と褒め称え拍手したい気分でもあった。 このハメ技、仕組みは単純でも、実際に人間を相手に行うのは、あまりにも難しい。 それをこうも鮮やかに成功させたのは、後にも先にもラズベリーベルだけと言えた。「こんなに綺麗に決まることがあるのか」と、一種の感動さえ覚える鮮やかさである。 そう、彼女は、端っから「熱い勝負」などするつもりはなかったのだ。 熱い勝負をしようという誘いは、全くの嘘。下手な挑発で自分に注目させようとしたのは、熱い勝負へとロスマンの意識を誘導するため。そして、熱い勝負を意識するのなら、ロスマンは下手な小細工などなしに真っ直ぐラズベリーベルへと向かっていくだろう。 ロスマンが少しでも横方向へ移動したら、全てがパーだった。まさに針の穴に糸を通すようなセッティング。しかし、それでも成功させたのは、ラズベリーベルの盤外戦術あってのこと。 やはり、全てが、緻密に計算されていた。「――場外! そこまで! 勝者、ラズベリーベル!」