……なんつって、浮かれていた時がありましたよ。 俺は今回の件で学んだね。美味しい話には裏があるもんだ、と。「うぅ……申し訳ございません……」 アイソロイスダンジョンの外に出て陽の光を浴びた瞬間、あんこは“へろへろ”になった。 自分で立って歩くのがやっとという状態である。 少し進んで木陰に入ると、瞬く間に元気を取り戻した。 条件は単純だった。全身が隠れる影ならば全力を出せる。陽光が少しでも当たると、当たった分だけ弱体化してしまう。服を着ていようが着ていまいが「体に陽光が当たっている」という事実が弱体化を誘発するようだ。 これはつまり、あんこは「影のある所でしか戦えない」ということ。夜中や屋内なら問題はないが、炎天下なら……諦めるよりないな。 うーん、なるほど《暗黒魔術》の代償がこれか。あー、すっごいイイトコ突いてくるなぁ……流石に予想外だった。まあ、しょうがない。それでも4ヶ月間の苦労を補って余りありまくる働きをしてくれることだろう。 あんこは現在、俺の影に隠れて共に歩いている。ほとんど背負っているような密着した体勢。全身が隠れずとも、少しでも隠れていれば歩行は問題ない様子であった。「送還しなくても大丈夫か?」「嗚呼、私を心配してくださるのですね。なんとありがたき幸せでしょう。ええ、主様のお陰で活力が漲っております。こうして身を寄せているだけで私は、私は……」「俺の影と俺のお陰をかけてるのか? あんこは洒落が上手いな」「うふふ……然様に意地悪なところもお慕いしております主様」「…………」 なんかこいつはからかっても面白くない気がする。いや、よした方がいいと俺の本能がそう言っている。シルビアをいじるような感覚でいたら返り討ちに遭いそうだ。うん、怖いから金輪際あんこをからかうのはやめよう。そうしよう。というかさっきから背中にでかいのが当たっていてそれどころではない。こいつ結構スキンシップが激しいな。狼だからか?「これから船に乗って港町で一泊、翌朝から馬に乗って一日中移動だ。しばらく我慢してくれ」「我慢だなどと、そんな。あんこは主様と共に過ごせてこの上なく幸福でございます」 身をよじらせながら俺の耳元で囁くあんこ。効果は抜群だ。ふと一人称が私の時とあんこの時とあるのはどういうことなのか気になったが、それを聞いたら更に激しいスキンシップが待ち受けていそうで怖くなり聞くのを止めた。 これから24時間以上こいつと二人きりとか……なんか心配になってきたぞ。ペホの町まで迎えに来てくれとユカリに連絡しとこうかな。 そんなこんなで。道中に一抹の不安を覚えながらも、俺たちはアイソロイスの島を後にした。