「おおい! 戻ってきたぞ!」「よくまぁ、皆無事で」 皆の無事な姿を見て、アナマが再び泣き始めた。随分と涙もろいやつだ。 まぁ、年を食うと涙腺が弱くなる。俺も、ちょっとした事で、うるうるしまうことがあるからな。「マロウ商会の娘さんもよく無事で!」「はい、ケンイチさんに助けていただきました」 俺とプリムラさん、そしてアナマで再会を喜んでいると料理をしていた女達が驚嘆の声を上げた。「ええ? もう戻ってきたんですか? さっき出たばかりでしょ?」「言っただろ。あの馬なしの車って奴は俺達獣人並に脚が速いんだよ」「へぇぇ」 側にいたニャケロが得意げに女達に説明をしているのだが――それを横目に見ながらアナマがアネモネを見つけた。「こんな子供までぇ……」 アナマがアネモネへ近づくと彼女の頭を優しく撫で始めた。「ぐすっ……あたしの子供も生きてりゃ、このぐらいの歳に……」「え? お前、子供いたのか?」「ええ――流行病で亡くしてしまいましたけどね……もう10年ぐらい経つかねぇ」 聞けば、行きずりの男との間に生まれた子供で、小さいうちに病気で死んだらしい。 この世界は医療が発達していないからなぁ。子供の生存率は高くないだろう。 アナマの相手はアネモネに任せて料理を仕上げよう。腹が減ったからな。「野菜は煮えたかい?」「まだですよ。この鍋の使いかたも解りませんし……」 量が多いので、さすがに煮えるのに時間が掛かるらしい。「爺さん、魔法で鍋をちょっと加熱出来ないか?」「そうじゃな。ワシも朝から働いて腹が減ったわい」 爺さんが何かの魔法を使うと数分で鍋がぐつぐつと沸き始めた。「さすが爺さん。よっしゃ、いい感じだ」 俺が圧力鍋の蓋を閉じると、すぐに蒸気が上がり始めた。これで、10分もすりゃ食えるようになる。「すぐに食えるようになるぞ、食器を用意してくれ。人数分あるか?」「本当ですか? 食器は野盗の男たちが使っていた物がありますから」 野盗は50人以上いたからな。この人数でも大丈夫だろう。 女達によって用意された深皿やスプーンは殆ど木製だが十分に使える。「ああ――騎士爵様には俺の食器を用意した方がいいかな?」「気にすることはないぞ?」 いつの間にか俺の後ろに騎士爵様が立っていた。周りを散策してきたらしい。「戦場では食事すら満足に出来ないこともしばしばあるからな。こんな所で美味い食事が出来る事自体がありがたい」「戦にも参戦した事が、おありなんですか?」「ああ、何度かな。だが殊勲を取ったわけでもなく、未だに無役の騎士爵のままだが」「今回のこの討伐で、役ぐらいは貰えますよ。だいたい騎士爵様のように優れたお人が無役って事がおかしい」 今回同行した冒険者達も頷いている。