「アズールさん、我慢してくださいね」 まだ治癒中のアズールさんの体を肩にかける。 すると、コウお母さんが、馬を寄せてきてくれたので、手伝ってもらってアズールさんをその馬の背に乗せた。アズールさんが倒れないように、支えられるような形でコウお母さんの前に座らせる。 そうこうしていると、魔物が馬を弄んでいたドスンドスンという叩き付ける音が聞こえなくなっていた。 視界の端に、溝の向こう側にいるあの魔物が、こちらに顔を向けながら、首をまた振り子のような動きをしているのが見える。「リョウちゃん、はやく!」 そう言って、騎乗中のコウお母さんが、私に手を差し伸べる。 私はその手を握り返そうと腕を伸ばした。 でも、亀の顔がこちらに向かってくるのが、なんとなくわかった。 私はコウお母さんに手を伸ばしながらも、身体能力を上げる呪文を唱え、そして思わず目をつぶった。 来るべき衝撃に備えるために。 でも、いつまでたっても痛みがない。 ただ、ドスっという何かがぶつかった音と、『キィイイ』という耳障りな叫び声のようなものが聞こえてきた。 魔物の首が私に向かってきたような気がしたけれど、まさかコウお母さんの方!? 私は目を開ける。目の前には、コウお母さんの手。私はゆっくりと握る。 そして、コウお母さんの顔を仰ぎ見る。 コウお母さんが襲われている様子はない。アズールさんも馬も無事だ。 でも、コウお母さんは、驚きで目を見開いて固まっていた。 私はコウお母さんの視線の先を見る。 信じられない光景が広がっていた。 亀魔物の頭に上から大きな剣を突き刺している人物がいる。 魔物は口を開くことができずにもがき苦しむように首を動かすが、その人物は首に跨りその剣にしがみついて揺れに耐えていた。 そして、そのまま亀の首が甲羅に収納されていく。 だが甲羅に頭を突っ込むには、剣がつっかえて入らない。苦しいそうにまたキイイ、キィイとなく。 剣をつきさしていた人は、甲羅の上に乗って、腰に下げていた二本目の剣を取り出し、ざすざすとその首に剣を差し込んで、そのままその首を切り落とした……。