「で、なんの用だ?」
『んと、その、グレンの……聲が聞きたくて』
と、弱々しい聲で、彼女は言った。暮人を脅していたときとは、まるで違う聲。
それにグレンは笑う。
「さっきは生きてたの? と、笑って俺を馬鹿にしたのにか?」
すると真晝がしばらく黙る。かすかな息づかいが聞こえてから、
『……あれは、私じゃ、ないから』
などと言ってくる。
「なら誰だ?」
『鬼』
「…………」
『私を乗っ取った、鬼』
「《鬼き呪じゆ》か?」
『……うん』
「おまえは、鬼に操られてるのか?」
『……うん』
と、彼女は素直に、かわいらしい聲で、返事をする。さっき暮くれ人とと會話していたときとは違う、媚こびたような、甘えるような、それでいて、芯のある聲。彼が昔から知っている、真ま晝ひるの聲。
その聲で、《鬼》に操られていると、言う。
《鬼》。
《鬼》の呪い。
グレンは目を細め、ケータイを持っている右腕をまた、觸る。自分の體にも、もう、《鬼》の呪いが混じってしまっている。血液は毒され、その血を注射しただけで、美み月つきの手は、バケモノに変貌してしまった。
そしてあのバケモノが、真晝を乗っ取って操っているのだ。
だが、
「……いま話しているのが、鬼じゃない証拠はあるか?」
『ない』
「なら、これ以上の會話は……」
『ま、待って! 切らないで、グレン。いま電話を切ったら、もう二度と話せないかもしれないから』
真晝が、少し慌てた聲で、言う。
それが罠わななのか、真実なのか、わからない。だからケータイはもう、切るべきかもしれない。暮人はそこでミスした。真晝は頭がいい。異常なまでに頭がいい。會話するだけで、操られてしまう可能性がある。
彼女とは、會話すべきではないのだ。
グレンは親指を動かす。