「神殿長、入場」 ギギッと開かれる扉とたくさんの視線に緊張しつつ、わたしは聖典を抱えて礼拝室に入った。ひそひそと交わされる会話に耳を澄ませながら、壇上に上がる。 ……どれがラルフだろう? 少し目を凝らしながら、下を見下ろす。ここにラルフがいるはずなのだが、壇上からでは皆が成長しすぎているし、誰も彼も春の貴色の緑をまとっているのでよくわからない。 ……ラルフは赤毛だったから、あれかこれかそれか……。うーん、面影があるような気がするからあれがラルフかな? うーん、よくわからないね。 貴族らしい笑顔を貼り付けたまま、わたしはどうでもよいことを考えていると、ラルフが目を凝らすように少し顔を歪めて、やや首を傾げる。 ……あれ? 何か気付かれた? ちょっと不信感を持たれちゃった? わたしは急いで聖典に視線を向けて視線を逸らした。そして、貴族生活で培った作り笑顔でいつも通りに儀式を行う。「水の女神 フリュートレーネよ 我の祈りを聞き届け 新しき成人の誕生に 御身が祝福を与え給え 御身に捧ぐは彼らの想い 祈りと感謝を捧げて 聖なる御加護を賜わらん」 祝福を与えれば神事は終わりだ。新成人達が礼拝室から出ていくのを見送っていると、ラルフが一度振り返った。 ……あ、あぅ、ラルフにバレたのかどうか調べたい。でも、下手に突いたほうが藪蛇やぶへびになりそうじゃない? どうしよう? もし、何かあったらトゥーリやベンノから連絡があるだろう。しばらくは黙って様子を見るしかなさそうだ。 春の成人式が終わり、神殿では青色見習い達を含めて会議が行われた。根回しをしてくれたザームによると、成人の青色神官達も人手不足は嫌という程実感しているようで、特に不満はなかったそうだ。むしろ、領主の後見を受ける立場なのだから働け、という気分らしい。 人手不足のため、そして、各自の冬支度のために秋の収穫祭に参加しなければならないことを理由に青色見習い達にも告げ、準備をするように命じる。祝詞の暗記、儀式用の衣装、馬車の手配、料理人と食料品の調達などやらなければならないことは多い。 ただ、初めての未成年に全ての神事を任せるのは難しいため、今年の収穫祭だけは成人の青色神官とペアを組ませることが新しく決められた。「あの、姉上。少しお時間よろしいでしょうか?」 ニコラウスが少し不安そうに尋ねてきた。今日の護衛がマティアスとユーディットで、コルネリウス兄様がいないせいだと思う。コルネリウス兄様には邪険に追い払われるので、ニコラウスはコルネリウス兄様が苦手そうだ。「構いませんよ。何か質問があるのかしら?」「はい。私の冬支度は父上が手伝ってくれるのでしょうか?」