「――互いに礼! 構え!」 退屈していたんだ。 言っちゃあ悪いが、正直、スチームは期待外れだった。 あの頭脳明晰な若き辺境伯、かなりの成長性はあるといえど、まだ遠く及ばない。 その成長速度さえ、俺の成長速度には遥かに劣る。 当然だ。辺境伯の仕事をこなしながらの片手間で、俺に追いつけるわけがない。 それはわかっていた。誰だってそうだ、生活がある。たかが一スキルに人生の全てを注ぎ込もうなどと考える者は稀少だ。 だが【杖術】に関しては違うのではないか、変わり者ばかりの千手将戦は違うのではないかと、俺は密かに期待していた。【杖術】をやるやつは限りなく頭がぶっ飛んでいるはずだと、生活の全てを【杖術】に注ぎ込んでしまうような頭のおかしいやつが一人はいるはずだと、そう期待していたのだ。 ……いた。そうかもしれない女が、ここにいた。 ああ、楽しみだ。グロリア、お前はどうだ……?「――始め!」 開始の号令と同時に、グロリアはインベントリから武器を取り出した。 あれは「欅」か。硬く重く強靭、棒の中では最も火力の出る種類だ。 その欅を軽々と構えているグロリアを見るに、決して侮れないSTRを持っているとわかる。 そして、駆け出したグロリアのスピード。彼女はAGIもかなり高い。 一切遠慮のない加速。SPも相当に余裕がありそうだ。 グロリアめ、どうやら【杖術】以外のスキルもかなりしっかりと上げているな?「…………!」 俺との間合いを詰め切ったグロリアは、ギリギリで《銀将杖術・突》を準備し、一瞬で《銀将杖術・払》へと切り替える。 無駄のないフェイントだ。わざわざルーレットのようにしなくとも、この一回のずらしで十分に効力はある。 まあ、攻めてくるのなら、受けようか。 ここは《桂馬杖術・打》であえて懐に飛び込んで――「甘い、甘い」 多分、シウバの方が口にした。 甘い? ………………俺が?「――ッ」 あれ? こいつ、いつの間に……《歩兵杖術・突》を……!?「ぐっ――!!」 腹部に突き込まれる棒の感触。 嘘だろ? ……ああ、久しぶりだ。 真正面から攻撃を喰らったのは、随分と、久しぶりだ。「追撃する」 ご丁寧に口に出しながら《香車杖術・突》を準備するグロリア。同じ意味合いの言葉を二回繰り返してないから、グロリアの方で間違いないよな?「いやあ、流石に」 これは喰らえない。 俺は合わせるように《香車杖術・払》を発動し、グロリアの突きを払った。 間髪を容れず、グロリアは反動を利用してくるりと一回転しながら《歩兵杖術・打》で俺の振り抜いた方とは逆側から打ち込みを入れてくる。なんだその動きヤベェ。【杖術】の申し子ってかい? 現在の俺の体勢において最も返しづらい角度からの打撃、非常に丁寧で嫌らしく鋭い攻めの手だ。この女、考え得る最善を最高技量で脊髄反射のように繰り出しやがった。「ちょ、ちょっとたんま」 一息つきたい気分だ。この感動を噛み締めたい。 俺は《歩兵杖術・打》でグロリアと反対方向から軽めに打ち込み、向こう側に少し押させる鍔迫り合いのような形で力を拮抗させる。「……やるなぁ、グロリア」 そう、一言褒めておきたかった。 誇っていい。お前は世界一位に正面切って一撃与えた女。来た、来た、来た……俺の求めていたものだ。お前は期待に応えてくれた。 ありがとう、グロリア。お前に出会えて、俺は嬉しい。「あなたも、凄くやる」「とても強い、かなり強い」「でも、わたしの方が強い、かも」「もっと強い、めっちゃ強い」 言うねえ。 ただ、まあ、わかるよ。