「おはよう、一廣さん。目覚めるとあなたがいるのは、私はとても好きよ」 うっ、クリティカルヒットというやつか。 どきゅりと心臓に突き立てられたのは、彼女の声、それに吐息だ。女の子の匂いとともに囁かれ、ぼすんと漫画のように顔は熱くなる。 わ、の形に口は開き、そんな様子さえ楽しいのか肩へと触れ、じぃっと紫水晶の瞳で覗きこんでくる。僕よりずっと小さな子なのに、真珠のような歯を覗かせて笑うのは……困ります。 とはいえ、今回ばかりはエルフさんも失敗したようだ。 僕の変化によって目覚めたらしきシャーリーは、ふわりと身体から離れると、己の頬を不思議そうにさする。 まるで「なんですか、いまのは?」という風に小首を傾げられたら、今度はマリーのほうが赤面してしまう番だ。「なっ、なんでもないわっ! ただの朝の挨拶なのっ! 日本では普通なのよ、普通っ!」 うーん、苦しい言いわけだねぇ。とはいえ僕としてはようやく珈琲を飲めるようになったので、とっくに冷えたコップを手にする。 どうやらシャーリーも目覚めたらしく、肌はゆっくりと半透明から濃いものへと変わる。そして「なるほど」と合点したのか、エルフのあごへ指を当て、上向かせてから頬へ「ちう」と音を鳴らした。 ぶっぼ!と飲みかけた珈琲を僕は吐く。 わななきながら、みるみる赤くなってゆくマリー。 そして、すべすべの感触が気に入ったらしく、続けざまの「ちうちう」というキスは、眠気を吹き飛ばすには十分すぎる破壊力だ。「ふああっ……んー、あいかわらず朝っぱらから騒々しいのうー、おぬしらは」 ようやく目覚めたウリドラも、呆れの表情を向けてくる。けれどたぶん、次の標的は君だから。もうすぐ慌てふためくんじゃないかなあ。