確かに前日からゴブリンが迷い込んでくることはあった。だが、それでも1匹や2匹ずつであり、これ程に纏まったゴブリンが自分達のアジトへとやってくることはなかった。 そのゴブリン達は手に食料や武器を持ち、あるいは金や銀、あるいは宝石を手に馬鹿騒ぎをしている。 地面に倒れているのは、見覚えのある者達。 自らの部下ではあるが、戦闘力を持たない……あるいは怪我で戦えなくなり傭兵を引退して雑用をするようになった者達。 その者達は、身体中から血を流しながら地面へと倒れている。 四肢はあらぬ方向に曲がっており、あるいは身体中に刃物の傷があった。 残っていた傭兵団の仲間に女がいなかったのは、不幸中の幸いであったかもしれない。 もしいれば、死ぬよりも酷い目にあっていたのは間違いないのだから。 そう、今エベロギの視線の先にいる、商隊を襲撃した時の生き残りの女のように。「くそっ、この時間が無いって時に。……いいか、野郎共。ゴブリンのクソ共を追い払う! くれぐれも勘違いするなよ、殺すんじゃなくて追い払うんだ!」「頭!?」 幾ら打算で集まった傭兵団であっても、長く付き合っていれば情が湧く相手もいる。そんな者達が殺されたというのに、仇を討たずに追い払うだけにしろという命令に、数人の男達はエベロギへと不満の視線を向けた。 だが、エベロギは寧ろ睨み返すようにして部下に鋭い視線を向ける。「確かに俺にしても、このゴブリン共には腹が立っている。けど、今ここで時間を取られれば討伐隊や深紅が迫ってくるんだぞ。奴等に勝てると思うか?」 そう言われれば、部下達にしても言い返す言葉は無い。 そして、ゴブリンが見える位置で悠長に会話をしていれば当然それには気が付かれる訳で……「ギャガガガギョ!」「ギョギャ?」「ギャギョグゴ!」 ゴブリン同士で声を掛け合うと、一斉にゴブリン達が襲い掛かる。 弱者に対しては強く、強者に対しては弱い。ただし決定的に頭が悪い為に、自分達より強い相手にも攻撃を仕掛ける。 今回の攻撃は、そんなゴブリンの特徴が顕著に現れた結果だったのだろう。 特に今はアジトに残っていた非戦闘員や戦闘力の低い者を集団で殺して興奮しているという影響もある。 何より……