ぎゅうと両手をにぎりしめ、たらりと口元を汁がこぼれても気にならないほど味の洪水を楽しんでいる。一気に噛め、一気に味が広がり、そしてどろりと脂身は原型を失う。咀嚼をしている間は鼻を香りが抜けてゆき、噛めども噛めども味が薄れることは無い。 びっくりした顔のまま咀嚼を続け、ごくんと飲み込んだ後も少女はしばし動くことを忘れていた。「おいしい……」 そんな感動めいた表情を見て、僕と薫子さんは頬を緩ませる。 本当にこの子は味への反応が素直で、こうして見ているだけで楽しめるのだ。薫子さんはこちらを向き、今までに見たことのない満面の笑みを浮かべていた。