遠い昔に味わったことのある感覚ではあった。この優しく安心できるようなぬくもりに包まれながら眠るのは―― だが、それはもう記憶からほとんど消え失せていて、その人の顔すら思い出せない。 幼い頃に失われ、それからずっと味わうことのできなかった感覚。それは総太郎に、幼い頃の夢をおぼろげに見せてゆく。 そして、やはり彼は山の上の家を夢に見る。そこがどこであるのかは、もう分かっていたが――自分が幼い頃にそこにいた記憶がある、ということが何を意味するのかまでは、思考力が働かず、理解ができない。(俺の母さんは……どんな人、だったんだっけ……) そんなことをうっすらと考えながら、総太郎の意識は浮上してゆく。 そして、目覚めたとき、夢のことは忘れてしまうのだった――