意外と言えば意外だが、ヤーシスやダーウィンの昔からの知り合いと考えると妙に納得できてしまった。「あのあたりで少し馬を休ませましょうか。周囲を見渡しやすいですし、シロさん達が戻ってきたらわかりやすいと思いますし」「そうだな。ちょうど甘い物を持ってきてるんだ、食べようぜ」「いいですね。少し疲れてきたところでしたし、お茶にしましょうか」「了解。椅子と机は不可視の牢獄に布をかけて使おうか」「なんというか、イツキさんのスキル変なところで便利ですね……」「使い勝手がよくて助かってるよ」不可視の牢獄は透明な箱を出せるようなものなので、ちょっと机が欲しい時や、物をおきたいときにも使えるうえに宙に浮くという貴重な体験も出来る素敵スキルなのだ。テラスから階段状にした不可視の牢獄を登って町を一望した時は感動したものだ。さらにこれでレベルもいずれ上がるのだから、もう普段から使うしかないだろう。街道の少し脇に馬車を止め、隼人が馬達には干草と飲み水を桶に用意している間に俺は机と椅子、更にお茶とお菓子の用意を始める。本来なら女性陣がすることなのだが、まだガールズトークは終わらないらしい。「んじゃ先に始めようぜ」「そうですね。わ、何時の間にお湯を沸かしたんですか?」「いやいや、魔法空間に入れておいただけだよ」お湯を沸かして入れ物ごとそのまま魔法空間に入れておいたのだ。どうせ魔法空間は今回の旅の準備を含めても隙間だらけだしな。だから湯気が出るほど熱い。お茶の温度としては相応しくないが、ぬるいよりはいいだろう。お菓子は簡単に小麦粉、砂糖、オリブルオイルで作ったクッキーである。後はモモモのジャムや、リンプルのジュースなんかも作っておいた。たとえ旅だとはいえ食に妥協はしたくない。美味しい物を食べられるのならば、その為の準備は惜しまないのである。その分、昨日は殆ど寝ていないのだがこの後荷台で少し寝させてもらうとしよう。錬金も気づかないうちに空が明るんでいるほど集中して作っていたしな。流石に眼がシパシパしだしてきている。「お、さくさくだ。これジャム付けて食べるとやばいぞ」「本当ですね。ロシアンティーみたいに紅茶にジャムを入れても美味しいです」「おお、博識だな隼人。うん。これはうまいな」ちなみに本場ロシアのロシアンティーは中にジャムを入れず、ジャムを舐めながらお茶を飲むことを言う。そもそもロシアンティーというお茶があるのではなく、紅茶の飲み方だという話だ。まあ、その間違いを正したところでこの世界にロシアはないから意味もないし、日本人の見解で少なくない数が紅茶の中にジャムを入れて飲むものだと思っていると思う。まあ、美味けりゃ何でもいいんだってことで。