セブンシステムは。 セブンシステムってのは。 世界一位の、定跡なんだよ。それがどういう意味か、こいつには一生分からないんだろうな。「分からないんなら、いいわ」 ……周りのやつらは皆、全てのスキルが九段だった。【剣術】だけじゃない。【弓術】も【魔術】も、実装されているスキルの全てが九段だ。 それが“当たり前”だった。 タイトル戦とは、頂点同士のぶつかり合い。命のしのぎ合いだ。 息をするように超絶技巧を繰り出し、気の遠くなるような時間を賭したありとあらゆる全てをその一瞬のみに注ぎ込む勝負だ。 当然、俺は“研究”された。数百人のランカーによって研究し尽くされた。やつらは俺の戦闘映像を何度も何度も繰り返し見て、足の運びから指先の動きに至るまで俺の行動の全てを研究していただろう。「この変化の二十一手目にこういう癖ありますよね」などと気持ち悪い指摘をされたこともある。だが、世界一位というのは、得てして、そういうものである。 sevenのこの技には、こうするのが最善だ。こう来られたらこうだ。こういう戦法ならsevenはやりづらいはずだ。 並み居るネトゲ廃人どもによって、数え切れないほどの対策を講じられた。 ……それでも。 それでも、俺は世界一位を維持し続けた。 セブンシステムってのはな、そんな定跡なんだよ。 何百人何千人という廃人どもによって立てられたseven対策、それらを全て受けとめ、吸収し、対抗し得るため、途方もない進化を積み重ねてきた定跡なんだよ。 …………お前に、お前如きに、簡単に打ち破られるようなものじゃないんだよ。「攻めさせんじゃなかった」 後悔が口をついて出る。 期待した俺が馬鹿だった。 彼が悪いんじゃない。少し楽しもうとした俺が悪いんだ。「行くぞ」「おやおや。またそれですか」 ロスマンは、俺の初手《歩兵剣術》と《桂馬剣術》の複合を見て、呆れるように呟く。 そして、わざとらしい余裕の笑みを浮かべながら、以前と同じようにトントンと二歩退いて躱した。「お次は飛車の突撃でしょうか?」 その通り。「で、角行を投げると」 その通りだ。「通じませんよ。龍馬でしょう?」 そうだ。「さて、これで終わりで――!?」 終わらせねえよ。 《龍馬剣術》の方が広範囲なんだ、《金将剣術》をぶつけて受ける時、こっちが金将の範囲外から攻撃してやれば、相手は龍馬の攻撃が有効範囲に到達するまで“待つ”必要がある。僅か0.1秒ほどの差だが……致命的だ。「ごめんな、さっきは見逃したんだ」 俺は謝りながら、《角行剣術》の突きを入れる。素早く強力な貫通攻撃。貫通効果があるため、対応するなら《歩兵剣術》では駄目だ。 ロスマンは俺の《角行剣術》を見抜き、《金将剣術》の硬直終了後、必死の形相で《香車剣術》を準備して対応しようとしたが――やはり、0.1秒足りていない。 セブンシステムは無慈悲にも正確なのだ。この距離で、このタイミングで、《龍馬剣術》を使った時、相手が《金将剣術》で受けた場合、《角行剣術》で攻撃すれば、必ずその後の対応に0.1秒遅れてしまうため、攻め切ることが可能。ゆえに《金将剣術》の対応は悪手。定跡に、そう刻まれている。既に、こう判明してしまっている。これはどうしたって覆すことのできない摂理。何年も前から分かっていた不変の事実。 だから定跡になる。だから対応を求められる。だから行動を強制される。そして、下手な対応は、決して許されることなどない。「強いよお前。素人にしては」 俺の《角行剣術》がその心臓へと吸い込まれるようにして接近する。「……ぁあああ!!」 ロスマンは、咆哮した。 遠いのだ。0.1秒の差が、永遠のように、遠い……。「――勝者、セカンド・ファーステスト!」