「ふむ――何々……」 色々と書いてあるようだが――要は全身を巡る魔力を一箇所に集めて顕現させるって事らしい。 そんな事が出来るのか? イマイチ不明だが……。 このファイヤーボールって魔法だと、指先や掌に集めるって事になっているが。 論より証拠、やってみるか。 身体の中を巡る――巡る――巡るって、そんなの本当にあるのか? どうも何回試しても、それらしい物が俺には感じられない。 一応、呪文らしきものも魔導書には書かれているが、呼び水みたいな物で、熟練すれば詠唱も必要なくなるようだ。「我が内なる力から生み出されし灼熱よ目前の敵を焼き尽くせ憤怒の炎ファイヤーボール」 うわ、中二っぽい。だが何も起きない。 婆さんが言っていたように俺に魔法の才能がないって事なのか?「ケンイチ、その本を見せて」 アネモネが魔導書を見たがっているので、見せてやる。 う~む、使えないとなると高い買い物だったな。「プリムラ、魔導書の類ってすぐに売れる物か?」「ええ、魔法を使えなくても、収集している方もいらっしゃいますし」 ああ、なるほど。コレクターがいるわけか。それなら、すぐに売れるかもしれないな……。 俺が役に立たない魔導書を売るかどうか迷っていると――。『我が内なる力から生み出されし灼熱よ目前の敵を焼き尽くせ』 俺の隣で、魔導書を読んでいた、アネモネの前にザワザワと煌めく青い光が集まり始めた。「おっ、ちょっと待て! アネモネ!」 だが、彼女はトランス状態のようで俺の言葉は聞こえていないようだ。 そして、集まってきていた光は、突然炎にその姿を変えた。『憤怒の炎ファイヤーボール!』 彼女の咆哮と同時に火の塊が打ち出されて、家の壁を真っ赤に覆い尽くした。「おわぁぁぁぁ! 消火器! 消火器!!」「ふぎゃぁぁぁ!」「きゃぁぁぁ!」 俺は急いでシャングリ・ラを検索すると、一番最初に出た消火器を選択して【購入】ボタンを押した。購入したのは3つだ。 ドスドスドス!! という音と共に落ちてきた消火器を掴むと、黄色いピンを抜き黒いレバーを握るとホースを火に向けた。 勢いよく噴射されたピンク色の粉が部屋中に舞う。