2「あいつも・凄い奴なの?」 私は神崎と別れた後、お姉ちゃんにそう尋ねた。「いずれ……わかる……」 お姉ちゃんは私の質問を肯定も否定もしなかった。 だけど、これは肯定を意味している。 私が何故そんな事を尋ねたかというと――姉のアリスは、私以外の人を名前で呼ばない。 呼ぶとしたら、その人の特徴で呼んだり、例えばさっきの男の名を借りるなら、神崎の男とか神崎の子とか呼ぶの。 なのに、先程お姉ちゃんは神崎の事を『カイ』とあだ名で呼んだ。 お姉ちゃんがあだ名で呼ぶという事で、私の脳裏にはこの間知り合った男の顔が思い浮かんだ。 その男はお姉ちゃんが『敵に回せば後悔する』とまで評価した男。 そして、唯一お姉ちゃんがあだ名で呼んだ人間でもある。 お姉ちゃんがあだ名で呼ぶという事は、お姉ちゃんが認めた存在だという事なんだと思う。 だから私は、先程お姉ちゃんがあだ名で呼んだ男に目を付けた。 余程出来る男なのは間違いない。 ……何故お姉ちゃんが認めただけでそれほど私が気にしているかというと、お姉ちゃんの観察眼が凄いからなの。 それに、お姉ちゃんは周りの人達から『何を言っているのかわからない、不思議な子』と評価されているけど、実際は違う。 本当は誰よりも優れた人間なの。 その事を知るのは、極ごく一部の人間だけ。 そもそも、お姉ちゃんが言ってる事はわけのわからないことじゃない。 要点しか話さなかったり、必要な事しか喋らないため、お姉ちゃんの言葉が理解できてないだけなの。 でも、元々お姉ちゃんはこんなんじゃなかった。 学園でこそ、私の為に目立たないようにしていてくれたけど、口数は少ないまでもしっかりと話す人間だった。 それがある事件をキッカケに、お姉ちゃんはこんな風に変わってしまった。 その事件が起きたのは――今から約二年前になる。 当時のお姉ちゃんは、中学生でありながら平等院システムズという会社を経営していた。 何故中学生のお姉ちゃんが会社を経営していたのか、凄く不思議だと思う。 その理由は、お姉ちゃんがそれほどお父様に期待をされていたからなの。 幼少の頃、あまりにも賢すぎるお姉ちゃんに対して、お父様が大掛かりなIQテストを行った。 その結果、お姉ちゃんはIQ250以上、もしかしたら300の域にまで達してるんじゃないかと言われた。