序列1位イヴ VS 序列2位キュベロ この対決を一言で表すならば……いつもの、であった。 いつも、1位と2位は、この二人なのである。「代わり映えせず申し訳ありません」「…………ぇ……に」「いえ別に、と申しております」 執事キュベロと向かい合う十傑イヴ。その隣に、何故かもう一人メイドがいた。 彼女の名前はルナ。通称「通訳」である。 美人でもなく可愛くもなく、かといって不細工でもない、至って普通の顔。髪も普通、体型も普通、声も普通、何ら特徴のないメイド。 その正体は、ユカリ秘蔵の暗殺部隊である『イヴ隊』の中で最も優秀な暗殺者。とはいえまだ暗殺をしたことはない。ただ、彼女の“調査能力”は目を見張るものがあった。義賊R6の生き残りビサイドを見つけ出したのも、第三騎士団長ジャルムの持つ暗殺部隊の隊長テンダーを捕えるための“お膳立て”をしたのも、実は彼女なのである。 そして、そんな彼女には一つ個性があった。それは「物怖じしない」というもの。恐怖という感情の欠落、と言っても過言ではないほどに。 ゆえに、である。ひょんなことから、メイドたちの殆どから恐れられているイヴ隊長と会話をする機会が訪れた。そこでルナは、イヴの正体が「単に無口で無表情で内気で引っ込み思案で口下手なだけの少女」なのだと知る。白い悪魔や操り暗殺人形などと呼ばれ恐れられている彼女も、できれば皆と仲良くしたいと思っていた。そんな隊長の健気さに心を打たれたルナは、以来、イヴの通訳としてできる限り傍に控え、他人とのコミュニケーションを手伝うようにしているのだ。「…………ぃ」「こちらこそごめんなさい、と申しております」「は、はあ」 だが、ルナもルナで問題があった。 彼女自身、相当なコミュ障なのだ。 語尾に「と申しております」と必ず付けて、通訳という仕事に徹すれば、何とか真面に喋れるのだが……普段の彼女は、決して人と目を合わせることなどなく、自分から他人に話しかけることも殆どなく、その日の業務が終わればすぐさま自室に帰ってペットの蜘蛛にひたすらぶつぶつと話しかけているような、まさに日陰の人間であった。「……ょ……す」「よろしくお願いします、と申しております」「……はい。よろしくお願いします」 方向性の違うコミュ障二人による実に奇妙なマッチングである。メイドの皆はもうすっかりこの光景に慣れたようだが、キュベロは未だに慣れていない。 挨拶を終えた二人は互いに礼をして、距離をとり、向かい合う。役目を終えたルナは、観戦者の列へと去っていった。 キュベロは「うちの使用人は皆どうしてこう一癖も二癖もあるのでしょうか」と執事らしい悩みに嘆息しながら、ゆるりと拳を構えた。相も変わらず、彼が使うのは【体術】である。 一方で、イヴは。両の腕をだらりと落として、棒立ちの体勢。その白魚のような指の先には、キラリと光を反射する“目に見えない何か”が垂れていた。そう、彼女はユカリも認める【糸操術】の使い手である。「さて……」 ファイティングポーズのまま、じりじりと間合いをはかるキュベロ。イヴは、両手をふわふわと揺らすだけ。 ……この二人、実に相性が悪いと言えた。 【体術】は、まさに近距離タイプ。近づいて、攻撃する。ただそれだけの、単純明快なスキルだ。 しかし【糸操術】は、中近距離タイプ。遠くからでも攻撃可能で、広範囲攻撃も可能、近距離対応も可能というマルチなスキルである。「これが、なかなか、躱しにくいっ!」 二人の間合いに張り巡らされる糸――その目視できない攻撃を、キュベロは経験からくる直感で次々に躱し接近していく。 イヴが発動したスキルは《金将糸操術》。自身を中心とした半径約4メートルへ糸を触手のように放出し、その糸に触れた相手を拘束するスキルである。「はっ!」 キュベロは《香車体術》を用いて、体を絡め取られそうになった糸を蹴り千切った。糸には、パンチよりキックが勝る。何度も戦っているがゆえに、その対処の仕方も段々と身に付いてきていた。