ケイトリーの変化 シビュラたちが退散してから10分後。「たぁぁ!」「ギシャァ!」 ケイトリーの剣がレッサーオーガの頭をカチ割り、命を奪っていた。 頭の傷から色々な物を垂れ流して絶命するレッサーオーガ。中々に凄惨な光景なのだが、ケイトリーは笑顔である。「やりました!」「ん」 さっきはレッサーオーガに怯えっぱなしだったのに、今回は最初からやる気満々だった。自分からレッサーオーガに向かって行って、斬りかかったほどだ。 どうやらシビュラに色々と言われたことで、発奮したらしい。また、シビュラの威圧感を体験した後では、レッサーオーガの迫力程度は気にならなくなったようだ。 結果として、レッサーオーガを瞬殺するという急成長に繋がったのだろう。 あとは、フランに対する高い信頼も関係していると思われた。 シビュラにフランの武勇伝を語って聞かせたことで、フランは凄い冒険者だったと改めて思い出したらしい。そして、フランが大丈夫だというのであれば大丈夫に違いないと、半ば自分に暗示をかけた形になったのだろう。 ああ、メガ盛り武勇伝に関しては、フランも訂正しようとしたんだよ? だが、これがなかなか難しいのだ。「それにしても、あの人たちはなんだったんでしょうね! 怪しいです! 戻ったら、お爺様とかディアスおじ様に報告した方がいいですかね?」「私がやる」「そうですよね! お姉様が伝えた方が、みんな信じてくれますから! ああ! でも、もう逃げてしまっていたらどうしましょうか?」「ウルシが追ってる」「な、なるほど! さすがお姉様です!」 二人の会話は終始こんな感じだった。 最初はほとんど会話はなかったのだが、途中からケイトリーの口数が一気に増したのである。これも、シビュラ相手にまくしたてたことで、緊張が解れたおかげであるらしい。 猫を被っていたのかとも思ったが、どうもそうではないらしい。臆病で引っ込み思案という話だったしな。普段はどちらかといえば物静かで、好きなことになると話が止まらなくなる、いわゆるオタクタイプなのだろう。 そして、今はまさに大好きなフランと一緒である。こうなるのも仕方なかった。 そのせいでフランが全然話をできないけどね。それでも何とかケイトリーの勘違いを訂正しようと頑張ったんだが――。「自らの功績を誇らないなんて! お姉様はなんて謙虚なんでしょう!」「……」 これ以上は無理でした。 まあ、話が大袈裟に伝わっているということは分かってもらえたとは思う。だが、その代わりに謙虚で正直な人間だという評価が付いてしまったようだ。 尊敬の眼差しが凄い。俺だったら「そんなキラキラした瞳で見つめないでー! 溶けるー!」ってなるんだが、フランは気にならないらしい。 結局その後は1時間ほど魔獣を倒したり、宝箱を開けるドキドキ感を味わってもらい、地上に引き返すことになった。「じゃあ、ここで終わり。上に戻る」「そ、そうですか。ありがとうございました! とても勉強になりました!」「ん。でも、お礼を言うのは早い。無事に戻れたわけじゃないから」「な、なるほど! 安全な場所に無事戻るまでが冒険というわけですね!」「ん」 それに、今すぐ戻る訳でもないのだ。「じゃあ、最後に少し休憩する。無理をするのもダメ」「そ、そうですね! 疲れていては、思わぬところで不覚を取るかも知れませんもんね」「そのとおり」「はい!」 フランに同意してもらえて、ケイトリーが本当に嬉しそうに笑う。尻尾がバサバサと振られている。なんか、ウルシを見ているようだ。「それじゃ、ここでご飯にする」「ご飯、ですか?」「ん。背中の肉を取り出す」「わ、わかりました」