どうやら大きな身体とのギャップがあったらしい。 よほど堪らなかったのかマリーはぶるりと身体を震わせ「おふっ」と息を漏らしていた。とはいえ僕としてはそんなエルフさんを見ているのも堪らないけどね。 名残惜しそうに花ちゃんが尻尾を振るなか、僕らは出発を再開する。 昨夜は夜の散歩を楽しんだが、こうして快晴の小道を歩くとまた異なる姿になるらしい。 目にもまぶしい新緑と、どこまでも広がる畑地。 視界をさえぎるものがほとんど無いというのは、妙な開放感を覚えるものだ。てくてくとアスファルトを歩きながら、少女と黒猫は伸び伸びとした姿を見せてくれた。「驚くほど昼間と夜で色彩が変わるのね。まるでアニメのようだわ」「おや、あれはフィクションだけど、同じように思えてくれたなら嬉しいね。」 2人からご機嫌な様子が伝わってくると、地元民としては嬉しく感じるね。 雪化粧をした岩木山へ向かい、僕らはゆっくりと歩いた。 さて、170年もの歴史ある湯治の場、ということで建物はずいぶん古びている。 とはいえ少し変わったエルフさんは日本の「わびさび」なるものまで覚えつつあるので、嫌な顔をするどころか喜々としてひなびた戸を開く。「わ、もう温泉の香りがする!」「あれ、鼻が良いんだね。小さな建物のせいかな……。先に支払いを済ませてくるね」 温泉宿、というよりはごく庶民的な内装だ。 あちこちにある古びたものへエルフと猫は視線を移す。家庭的な椅子、提灯、古いビール自販機などを興味深げに眺めていた。 ここはもう完全に昭和だな、などと思いつつ受付へ向かう。 さて、試しに交渉してみたところ、意外にも受付のおばさんは応じてくれた。大人しい黒猫を見て、桶のなかでなら猫も温泉を楽しんで良いと言ってくれたのだ。 ちょうど人の少ない時間もあったろうが、珍しくも可愛らしい外国人旅行者へ、おもてなしの意味があったかもしれない。いや、ひょっとしたら単なる猫好きなのかもだけど。 そういうわけで……。