「ポチッとな」 目の前に、アクセサリー類が大量に落ちてきた。「おおっ! これは!?」 カナンが駆け寄って、ティアラを手に取っている。「言っておくが、それは銀でもないし宝石でもない。全部、鉄とガラスだ」「なに? これは真珠ではないのかぇ?」 リリスが手に取ったネックレスには、イミテーションの真珠がついていた。「それは、それっぽく作った模造品だ」「じゃが、真珠を見たことがない者に、これを見せたら真珠だと信じてしまうぞぇ?」「こういうものは売れないし、売るつもりもないよ」 アマランサスも大型のネックレスを手にとっている。 元世界じゃ結婚式でもなけりゃ、こんなネックレスをつけたりはしないよな。 元世界にも本物のお姫様もいたけどさ、これが本物だったら数億円はするお宝だろう。「ふむ……確かに、よく見れば作りが荒いのう……」「そりゃ、模造品だからな。でも使えるものはあるはずだし、近づいて目を凝らさないと、解りっこない」「ケンイチの言うとおりだな」 そう言ったカナンの腕には、レースの指なし手袋が装着されていた。 このアイテムも、結婚式ぐらいでしか使う場面がない。 カナンが、山積みになったアクセサリーの山から、ガラスが沢山はめ込まれたネックレスを取ると、首に巻いた。 いくらイミテーションでも、モデル級の美人が装着すれば、まさに鬼に金棒。 眩しすぎて目が潰れそうになる。「まったく、さすが辺境の華――似合いすぎるな」「そうだろう! おほほ! 私の魅力にやっと気がついたようだな」 なんだかんだ、カナンはこういう華々しい恰好が似合っている。 アイテムBOXから出したテーブルの上に、レースやらアクセサリーを山積みにして、あれやこれやと話し合う。 ――時間がそのまま過ぎて夕暮れどき、赤く染まるアストランティアに通じる道。 女の獣人を護衛に従え、こちらに向かって来る自転車の姿が見えた。 見覚えのある自転車――というか、自転車は1人にしか貸していない。 あれはプリムラだ。「おお~い! プリムラ!」 叫んでも声は聞こえないだろうが、姿は見える。 手を振る俺の姿が見えたのが、彼女が漕ぐ自転車が加速した。 みるみる近づいてくると、自転車を放り投げて、プリムラが俺に抱きついた。「ハァハァハァハァ――ううっ~」 彼女が俺に抱きついたまま、突然泣き出してしまう。「ちょっと、プリムラ。泣くことはないじゃないか」「プリムラは、心配してないようなふりをしていたが、聖騎士様のお顔を見て、一気に色々と噴き出したのじゃろう」