茶目っ気 キャサリンが零した言葉を、アズリーがすくい上げ、言い放った余りにも大きな問題。 誰もが沈黙し、息を呑む。 お調子者のエッグが零す言葉も――「――ハ、ハハ……」 やはり、乾いた笑い声のみ。 俯く皆の視線。その中で、唯一上がる光。その光は輝き、その拳は強く、その情熱は熱い――ただ一つの光。「……可能性は零じゃない」 魔王ルシファーに負けたあの夜。あの月夜に相棒ポチが言った「可能性はあります」という言葉。限りなく低い可能性。しかし、限りある手である事は間違いない。 アズリーは目を瞑り、俯き、やがて汗をかき、ブツブツと独り言を始めたのだ。 その異常ともいえる異様な光景に、既視感のあったウォレンが叫ぶ。「イツキさん、紙とペンを! あるだけ持って来てください!」『ほいさ!』 廊下に待機していた雑用係のイツキ。 あっという間に集められた分厚い紙の束。「MPを枯渇させるなら魔法の選択はやはりMPの低下魔法――レデュケイト・マジックポイント。これに加速魔陣を組み込んで奴に叩き込めば、毎秒百のMP低下が見込める……いや、毎秒百の低下じゃ低すぎる。魔王ルシファーの魔力はおそらく五百万を超える。レデュケイト・マジックポイントの改良、加速魔陣の改良、更には極化が必要。そうなると、発動出来るのは俺とトゥースのみ? いや、それじゃあダメだ。これは設置型魔法陣では出来ない。魔王の動きに合わせる必要がある。どうしても奴の身体に直接描き込む必要が出てくる」 一枚、また一枚と紙が丸められ、飛んでいく。 それを拾うアミル。「……凄い。既に相手の身体に描き込む魔法陣が完成してる」 横からそれを覗くバルンが目を丸くする程の衝撃。「何だよこれ。結界魔術で魔王ルシファーと魔法陣を癒着させるってどういう意味っ?」 他の紙を拾ったラッセルが、インクの触感を確かめながらアズリーの文字を読み解く。「これは……加速魔陣の公式無視っ? そうか、ここを並列処理して魔力供給量でバランスをとれば、効率は数倍に跳ね上がる」「いえ、その案は既にこちらで更新されています」 食い入るようにアズリーの新たな紙を見るウォレン。「なんとっ!?」 驚くラッセルの前に再び紙が落ちる。 ラッセルがインクの跡を追い、アミルとバルンはそれを左右から覗き込む。「これが一つの魔術陣の情報量ですか……!」「こんなの……手が追いつかないですよ!」「それだけじゃないよ。一つ一つの動作に均等な魔力供給が必要みたいだ……!」「違う……こうじゃない」 再び丸められる紙。「これすらも……足りないと……?」 血眼とも呼べるアズリーの瞳は、既に紙を見るというより、その脳内にある情報をただ覗き見ているようにも見えた。 呆気にとられる六勇士陣に、アイリーンが小さく零す。「私たちが出来る事は少なそうね」 それが、退室を促す言葉だと、誰もが理解出来た。 しかし、六法士陣は、それを拒否するかのようにその場に残ったのだ。「邪魔はしません。全て読ませて頂いた上で、更なる可能性を探すお手伝いがしたいのです」 ラッセルの真剣な言葉。そして漆黒の眼差しに、アイリーンは静かに頷いた。 アズリーの隣に座るジェニファーは、腕を組んだまま動かない。「私はここにいるよ」「あなた、何を……っ」 アイリーンはそう言うも、他の六勇士もそれは同じだった。「アイリーン殿、わかってはいる。わかってはいるが、儂はここに残らせてもらう」 チャーリーも、「戦士側の知見も、必要かもしれませんからね」 ドラガンも、「まだこの会議終わってないんでしょ?」 エッグも、「魔王ルシファーを倒すための魔法でしょ?」「完成に立ち会ってこそですよ、アイリーン様」 キャサリンも、ジェイコブも、「あそこのお爺さんも、動かないし」