「失礼、遅くなりました」「ジャルムか。話は分かっているな?」「はい。例の物をいじくる算段についてで御座いましょう」「分かっているならよい。早急かつ慎重に行え。恐らく向こうは監視の目も徹底している」「ええ。その代わり手段は選べません」「表に出なければ問題ない。幾ら使っても構わん、完璧にこなせ」「し、承知いたしました」 ジャルムのこめかみを一筋の汗が伝う。今朝から彼の胃は悲鳴をあげ続けていた。だがもう後戻りはできない。「ところでジャルム。先日に第一宮廷魔術師団の臨時講師となった男の情報を調べられるか?」「臨時講師、で御座いますか?」「そうだ。今回の一件、そのセカンドという者が絡んでいる可能性が高い」「何ですと……!?」 ジャルムは驚きの顔を見せ、直後、ハッとする。 セカンドという名に聞き覚えがあったのだ。「……宰相閣下。その者でしたら、私にお任せを」「何? 既に手を打っているというのか?」「はい。我が団の犬を送り込んでおります」「でかした!」 ここで、ジャルムという男の悪い部分が出た。渡りに船とばかりにウィンフィルドの仕掛けた罠へと飛びついてしまったのだ。その動機も「手柄を自身の物にしてやろう」という不純なものである。「優秀な人間を下に取り込んでは上の人間の手柄とする」第三騎士団のやり方そのものを体現していた。「ジャルムよ。禍を転じて福と為そうではないか。彼奴についての情報収集、加えて文書の方、任せたぞ。場合によっては……」「はい、お任せ下さい」 穢れた笑みを浮かべる彼らが、どうしようもないほど追い詰められるのは、もう少しだけ先の話である。