「許しが出たからって今すぐやるって誰が言ったのさ」 琴音ちゃんストップ。ソーローすぎるってばもう。 クアドラプルって、上も下もじゃねえか。そんなに焦ってもいいことないよ。 ………… ま、まあ、初音さんに怒られないならば、まだ、ね。 トリプルくらい検討はするけど。 ―・―・―・―・―・―・―「あら! あらあらあら、緑川くんいらっしゃい。この前は本当にごめんなさいね……」「お、お邪魔します、初音さん。この前のことは気にしないでください」 というわけで、真意を問うべく、白木家へ。 初音さんは休日にもかかわらず、バッチリメイクをしていた。 来て早々琴音ちゃんの部屋へ行くのも、下心があると勘違いされてしまいそうなので思いとどまり。 初音さんにリビングらしきところへ案内され、そのまま椅子へ着席。「はい、きょう買ってきたシベリアよ。紅茶と一緒に召し上がれ」 初音さんが紅茶とシベリアお茶うけを出しておもてなしをしてくれた。 ……シベリアって、またか。「お、お母さん! なんでまたシベリアに紅茶なんですか!?」「あらごめんなさい。ちょうど緑茶がなくなっちゃって」 しかし、納得いかない琴音ちゃんが暴れたので、初音さんはテーブルにそっと五百円をパチン。「じゃ、じゃあ、緑茶を買ってきます!」「ならば人数分お願いしてもいいかしら? あ、生中茶なまなかちゃならきょうのセイ〇ーマートで日替わりよ。安いわ」 初音さんの安売り情報を理解し、琴音ちゃんは五百円玉を握るとダッシュで駆け出した。 が、疑問だ。最近のコンビニには日替わり大特価商品が置いてあるのか。単に名前がヒワイ過ぎて売れ残ったお茶の処分じゃないの。「だ、大至急買ってきます! 祐介くん、シベリアはまだ食べちゃダメですよ!」「……お、おう」 必死の形相で駆け出す琴音ちゃんを尻目に、初音さんは紅茶をひとくち。優雅だ。 緑茶を用意してなかったのは、わざとじゃないよな。「初音さんは、紅茶が好きなんですか?」「……ええ、そうね。好きよ。前世は英国人だったのかもしれないわね」 少し気まずい空気だ。俺はどうでもいい話題でお茶を濁す。「そこまで紅茶が好きなんですか……」「……ふふ。英国人は、恋愛と戦争では手段を選ばないらしいけど」 話がアイキャンフライ。えーと、戦車道のやりすぎです。あとこれだけは言わせてくれ、ガルパソの六号機はク〇だ。「そう思うと、ますます前世はイギリス人だったのかも、なんて……」 だが、いつの間にやら、初音さんから優雅さが失われている。 よくわからない変化だが、今日俺がここに来た理由を見失っちゃいけない。「あの、初音さん……」「……緑川くんは、小松川さんの、お孫さんなんですって?」「!」 例の発言の裏を確認しようとしたのに、初音さんに先を越されちゃいましたわ。 真之助さんと俺の血縁関係は、わざわざ言うことじゃなかったし、俺からは言ってないはず。琴音ちゃんが教えたのかも。 初音さんが、悲しそうな目をしつつ言葉を続けた。「……じゃあ、ひょっとして、私が琴音とこの街に流れ着いた時のこと、聞いてるかな?」「……」「……そっかぁ……」 無言は肯定に他ならない。なんとなく初音さんは悟ったようだ。 まあ昨日聞いたばっかなんだけどね。「ならね、緑川くんに、知ってほしいこと、あるの」「知ってほしいこと、ですか……?」 当社比で、すっごく空気が重い。 いや、もう覚悟は決めましたよ。即決で。 大丈夫、馬場先生との修羅場もちゃんと切り抜けてきたじゃないか。俺はやればできる子。