狂気と優しさ 王都へ続く街道で崖崩れらしい。 俺達が王都へやってくる時にも橋が落ちていたしな。多分、あの大雨が引き金になったものと思われる。 この都は膨大な民の食い扶持を四方から輸入しているという。このままでは物資の供給が滞り、餓死者が多数でると予測される。 王宮でとても素敵な歓待を受けた俺は、そのままバックレようとしたが、国王の謝罪と説得を受けて、崖の崩落現場へ向かう事になった。 だが、1人の貴族に呼び止められた。男はユーフォルビア伯爵というらしい。「ケンイチ殿は、そちらの小さな魔導師様を、アネモネと呼ばれましたね」「はい――確かに、あの子はアネモネですが……」「私、ユーフォルビア伯爵は、大魔導師白金のアルメリア様と懇意にさせていただいておりまして……」「そのアルメリアという魔導師は辺境で病死なさったらしいと……」「え? 行方不明なのは存じておりますが、病死なさったのですか?」 貴族はかなり動揺をしている。その大魔導師と何か関係があったのかもしれない。「いや、そのアルメリアさんだとは確証はないのですが」 その貴族によれば、アルメリアという魔導師から手紙をもらい、辺境でアネモネという子供を産んだという連絡を受けたようだ。「こういう物もあります」 俺は、アイテムBOXから至高の障壁の魔導書を取り出して、貴族に最後のページを見せた。「こ、これは確かにアルメリア様の直筆――これをどこで?」「これは、ユーパトリウム子爵から譲り受けました。先代のユーパトリウム子爵が旅の魔導師から買った物だというお話でした」「あの若さで、至高の障壁という大魔法を使いこなし、名前もアネモネ――これはもう、アルメリア様の忘れ形見で間違いないのでは?」「俺も、そう思うんだが……お~い、アネモネ~」 アネモネが俺の側にやってきた。 彼女に伯爵様を紹介して、白金のアルメリアという魔導師の事を改めて話した。「どうでしょう? 貴方がその気であれば、我が伯爵家で支援して、さらなる魔導の高みに――」「興味ない」「は? ――いや、大学等で学べば、より高度な魔導の世界が……」「魔法ならケンイチから教わるから要らない。それに学校の先生より、賢者のケンイチの方が色々な事を知っていると思うし」「……は? 賢者?」 俺達の会話に王女が割り込んできた。「その者と数日話したが、妾が舌を巻く程の博学じゃぞ? あれだけの知識を、大学の教師共が持っているとも思えん」「王女殿下がそう仰るのであれば……」「だから要らない」 アネモネはつっけんどんだ。そもそも、こんな事態に巻き込まれて、貴族に良い印象を持てっていう方が間違っている。「呆れた! 魔法を独学で学ぶ? そんな事出来るわけないじゃない!」「独学?」 突然、会話に入ってきたメリッサという魔導師の言葉だが、アネモネが聞きなれない単語に首を傾げている。「独学ってのは1人で勉強する事だよ」「1人じゃない! ケンイチも一緒!」「賢者か何かしらないけど、あの訳の解らない召喚魔法だけしか使えないのよね?」 ぐっ、鋭い! あの戦いだけで、他に魔法がないってのがバレたようだ。「それでも、憤怒の炎も覚えたし、爆裂魔法も覚えた! ケンイチ、腕を出して!」 さっき王女に囓られた傷を見せる。「回復!」 彼女の魔法に導かれるように、俺の腕に青い光が集まってくる。