ふむふむ、もしも火の精霊を操れたらすごいぞ。ガス代をかけずに、なんと角煮を作れてしまうのだ。 などと思いながら大根を刻み、だしの溶けた手鍋へ入れてゆく。くつくつしてきたら味噌を入れ、ふわんと優しい匂いが部屋へ漂い始める。「んー、いい匂い。青森を思い出すわー」「思ったよりマリーは和食が平気だよね。今まで遠慮していたけど納豆はどうかなぁ」 じゃっとベーコンを油に落としつつ尋ねると、テーブルに座る少女は怪訝そうに首を傾げる。「ナットー……? 分からないけれど、どんな食べ物なのかしら」「僕用に買ってあるけれど、見てみるかい」 そう言うと、少女は先ほどまでの不機嫌さをいくらか晴らした顔で近づいてくる。うさぎ耳のついたスリッパ、そして空色の可愛らしいパジャマ姿だ。 しかし、愛らしい顔はヒクリと引きつる。腐った豆である豆腐……ではなく小鉢に入れた納豆を目にしたからだ。「無理っ、無理っ、これは絶対に無理っ! えぇーっ、なぁにこれ。さては魔よけの一種かしら?」「えーと……確かに豆は魔よけにも使われるけど、日本人の愛する食事だよ」 まあ、苦手な人もいるし、地域によっては食さない所もあるけれど。とはいえ、和食を堪能しているエルフは常日頃から「日本人は味への熱意が異常」と言っているほどなので、半信半疑……よりも数歩ほど好意的に傾いている。「……美味しい、の?」「んー、人によるかな。苦手なら食べなくて良いんだよ」「一廣は食べる、の?」「開けちゃったからね、もちろん食べるよ」 ベーコンと目玉焼きをお皿へ移しつつ答えると、マリーはしばし悩んだ。そして決死の表情で口を開く。