アランとダンスを楽しんだ後、カ対のメンバーであるシャルちゃんやリッツ君を見つけて、こっそりと声をかける。 そして簡単打ち合わせをしたのち、それぞれバラバラなタイミングで適当な理由をつけて、晩餐会から離脱した。 そして、あらかじめ決めていた待ち合わせ場所に着くと、すでにシャルちゃんとリッツ君が、簡素な服に着替えて身を隠して待っていた。 ここは、学園の敷地内の森。 繁みに身を隠しながら図書館が一望できるとっておきの場所。 私が入学した当初の図書館は、切り立った崖の上みたいな小高いところに建てられていたけれど、署名活動の成果として、今は高低差のないところに図書館の建物がドンと構えている。 お陰で、少し離れた場所からでも図書館の周辺の見張りがしやすい。「すみません、ちょっと遅れてしまいました。まだカテリーナ様はいらしてないですよね?」 図書館に明かりがついていないのを見ながら、すでに待機していたメンバーに尋ねると、リッツ君が頷いた。「誰も図書館にはいないと思う。みんな晩餐会に夢中だし。あ、そういえばアランはどうしたの?」 リッツ君にそう聞かれて、私も地面に腰を下ろした。「ギリギリまでカテリーナ様の様子をみてもらってます。カテリーナ様の今までの動きから察すると、救世の魔典を取りに図書館にくるとは思いますが、念のため」 リッツ君にそう言って、小高い丘の上に建てられた立派なお城に目を向ける。先ほどまで私たちがいた晩餐会の会場だ。 そろそろ晩餐会も終わりの時間だろうに、お城の方は、オレンジの明かりがこれでもかというくらい瞬いて、眩しいぐらい。 それにしても今日の晩餐会の会場の護衛の数はすごかった。 貴族の方々が勢揃いの今日の晩餐会ということで、城の騎士という騎士が綺麗な鎧を着てお城を守っていた。 向こうはあんなに華々しかったというのに、図書館は……、と思いながら円筒形の細長い建物の図書館を見る。 こちらの最上階に、救世の魔典がいらっしゃる。というのに、外の見張りは一人もいない。 というか、今日に限らず基本見張りとかはいない。 ただ、許可をとって魔典を見るために入室する魔法使いがいる時は、必ず数人の魔法使いの見張りがつくらしいけれど、魔典を見る予定のない夜は誰もいないらしい。 たしかに城の護衛も大切だとは思うけれど、救世の魔典が置いてある図書館がこんなに放置されていて大丈夫なのだろうか。 図書館のセキュリティー甘くない?「図書館には見張りもいませんし、こんな無防備で大丈夫なのでしょうか」 図書館の杜撰なセキュリティに思わずそう呟くと、シャルちゃんがうーんと少し考えてから口を開いた。「確かに無防備に思えるかもしれませんが、そこに至る扉には、古代の強力な魔法がかけられています。どんなに力を入れても、壊れませんし、無断では入れません」 なるほど、魔法があれば大丈夫ってことでこのセキュリティー体制なのか。 それほどまでに、古代の魔法とやらは信頼されてるらしい。 シャルちゃんの説明を聞いたリッツ君も頷いた。「……カテリーナ嬢が、何か結界の綻びを見つけられたというなら別だけど、普通ならカテリーナ嬢が頑張っても、あの部屋に入ることは難しいと思う」 リッツ君の言葉に私も頷く。 リッツ君やアランは、救世の魔典の部屋に施された結界の強さを知っているからこそ、カテリーナ嬢が魔典を奪いに行くという私の読みに対しては、どちらかというと懐疑的だ。 でも、カテリーナ嬢は頻繁に救世の魔典のある部屋に足を踏み入れていた。 その過程で、魔法のセキュリティへの対策を練っていたとしてもおかしくはない。 ただ、今までのみんなの調査では、カテリーナ嬢がなにか、図書館の結界魔法に対して何か対抗策や仕掛けをしているような痕跡は見当たらなかったらしいのだけどね……。 それに、カテリーナ嬢が出入りできる昼間の魔典のある部屋には、常に他の魔法使いがいる状態。そうやすやすカテリーナ嬢も変なことはできないだろうし。 でも、カテリーナ嬢の性格からして、駄目元でアタックとかしそうなところがある。 と思っていたら、ガサガサと繁みが揺れる気配がして、アランが現れた。 着替える時間がなかったらしいアランは、晩餐会の時にきていた銀の刺繍のされた黒い礼装を着たままだけど、どうやらカテリーナ嬢の見張りを終えたらしい。 ということは……。「カテリーナ様が動いたんですね?」 私がそう尋ねるとアランが頷いた。「ああ、カテリーナが晩餐会中に気分が悪くなったと言って、城の個室に入って行った。その部屋で見張りの護衛に晩餐会の時に持ってきた飲み物を振舞って、しばらくして護衛が倒れた。多分、睡眠薬を飲ませたんだと思う」