突然少年の態度は変わり、なにを言っても反応しなくなった。 まだ夜は始まったばかりであり、たっぷりの胸元を見せたことで先ほどまで顔を赤くさせていたというのに。 思わず肩を掴もうと手を伸ばしたが、すかりと宙を掻くことになった。まるで数歩ほど先へ移動したかのように、鍛え上げたイブを置き去りにする。 あっけに取られているとバルコニーからは当のエルフが現れ、そして手を取り合って階段へと歩き去ってしまうが……。「あれ、ザリーシュ、様?」 ぽつりと呟いた声は、あっというまに祝賀会の喧騒へと消えてしまった。 そう、サラリーマンである彼にとって出社時間は絶対である。 たとえ震災のときであろうと、ザッザッと列を成して出勤する様子には、ある意味で侍としての風格を感じさせたものだ。 まあ、今は風潮が変わりつつあるけれど……。 ともかく事前に了承を受けていた通り、2台ある馬車のうちひとつを使って戻り、大慌てで就寝することになったわけだ。 もしこれが土曜日であったなら、また異なる物語があったかもしれない。しかし明日の夜には魔導竜ウリドラが戻り、事態は加速してゆくだろう。