「それはそれで切ないですの……」 フィーリアは俺が扉を開ける直前までアイに抱きついていたのだろう。 アイは何とも言えない物悲しい顔で俺達を見ている。『とらすとさま、とらすとしゃまー……』 すりすりと全身を擦り合わせてきて背筋がゾクゾクする。 アイが目の前に居なければベッドに押し倒してしまいそうだ。 しかし、これは……酒? そう、酒だ。 フィーリアからお酒の匂いがする。 反応的にも酒に酔っている者と酷似している。「アイ、フィーリアに何をした」 聖霊であるフィーリアが酒に酔うかはわからない。 いや、酔うから現在の状況になっているんだろう。 とはいえ、酔うにはそれなりの量の酒を飲まなければいけない。 そして俺の記憶が正しければ、フィーリアは酒を自分から飲んだりしない子だ。 付き合いで嗜む、その程度の飲酒量だったはず。 つまり目の前の少女が何かしたのが原因だろう。「お姉様も少しは高揚しているという事ですの」 高揚とは魔王軍との勝利に対して、という事だろう。 普段のフィーリアはこんなに無防備ではない。 俺が眠っている間に何があったのかは不明だが、おそらくはアイがあれこれと理由を付けて酒を飲ませたと言った所か。 ふと、眠る前にアイが言っていた事を思い出す。「まさかコレの事か?」「ふふふ、お姉様には幸せになってもらいますの。だからお前を利用するのですの」 なんと傍迷惑な話だろうか。 とはいえ、それが善意であり、しかも害が無いのだから強くは責められない。 いや、フィーリアは酔わせられているので、害とも言えるのか? まあフィーリアの性格からして、その程度の事で責めるとは思えないが……。「そういう訳でお姉様を任せますの。後は上手くやるですの!」 などと親指を立てた後、アイは去っていった。 ……あの子は俺の何なんだろうか? それよりもフィーリアだ。 今も先程と同じくすりすりと顔や身体を俺に擦り合わせていて、触れている箇所から快楽が溢れてくる。「とりあえず座るか?」『はぁい……』 などと頷くフィーリアだが、俺に抱き付いたままだ。 どれだけ酒を飲ませればこうなるのかはわからないが、随分と酔っている。 瞳はとろんと水気を帯びていて、頬もほんのりと赤い。 そのどれもが酒の影響だろう。 しょうがないのでそのままの体勢でベッドに座った。