うーん、ファンタジー世界だなぁ。 地平線まで広がる砂漠、それに宇宙を感じさせるほどの青い空。孵化させた魔石に乗り、滑空するなんて日本ではなかなか……いや、この世界でもそう味わえないか。 革ひもで固定した馬用の鞍はしっかり安定しており、多少の速度でも問題無さそうに思える。足場が安定したおかげか、マリーも先ほどより空の旅を楽しめているようだ。 それから耳元には精霊へ呼びかける声が響く。 唸る風は少女の唱える術により、ぴたりと鳴り止んだ。「おおー!」 思わず声が出てしまうほど、一気に空旅は快適になった。 太陽はだいぶ傾いたけれど日差しは尚も強く、真っ青な空を僕らは見上げた。「これでやっと会話ができるね。さすがは半妖精族のマリーだ」「んふっ、あとは光の精霊を操れば、あの日差しだって和らぐわ」 機嫌の良さそうな声が後ろから聞こえ、同じように精霊へ交渉をするエルフ語が響く。久しぶりに聞いたけど、エルフ語は歌のように響きが美しいので、つい耳を傾けてしまう。 光の精霊との交渉はすぐに終わり、ふっと日差しはやわらいだ。「んーー、できたわ! これでやっと砂漠の空を楽しめるわね」 半身になって振り返ると、満面の笑みをするマリー、そしてローブの胸元から頭を覗かせる黒猫がいた。「うわー、すごい。砂漠って上から見ると綺麗ねぇ。んーー、このあいだのアニメを思い出してしまうわ」「いやあ、これは流石に思い出すよ。大きな魔物が出てきても、今なら何も驚かないなぁ」 るるるー……、という独特な飛翔音が響くなか、ゆっくり辺りを眺める。 並走するように砂地へ走る影は、この乗物によるものだ。少女から指差されたので、思わず両手を上げると影の形も変わる。後ろの座席からも腕の影は伸び、空旅による高揚感のせいで僕らはどっと笑い声をあげた。「ねえ、どれくらい速度を上げられるのかしら?」「分からないけれど、まだまだ余力はたっぷりありそうだね。今はたぶん時速百キロくらいかなぁ」 あくまで車の体感速度だけどね。さすがに空を飛んだことは無いので間違っているかもしれない。 不要となったゴーグルを外し、それから速度を上げるようルンへ命じた。 透明な羽はより小刻みに羽ばたき、やや前屈姿勢になって速度を上げる。るんっ、るんっという段階的な速度調整を経て、一本の矢のように飛翔をするが……後ろから抱きついていたマリーが「にゃああ!」と悲鳴を上げたので実験はこれまでだ。 再び緩やかな速度に変わったけれど、ひい、ひい、とマリーはしがみついたまま弱々しい呼吸を繰り返していた。「ごめんよマリー、大丈夫かい?」「ええ、ほんと、びっくりして……新幹線のはやぶさになるかと思ったの」 へにゃっとしたマリーを抱き支えたけど、さっきは時速どれくらいだったんだろう。風のあおりが無いせいでよく分からないけど、かなり速かった気がするぞ。 とりあえず足元を見下ろし、古代遺跡へと伸びる道を確認する。これをまっすぐ追えば、目指すオアシスへ辿り着けるはずだ。