当然のように言って彼はふらつきながら立ち上がろうとする。そこでミレーユは、ようやくはっとした。 苦しげな表情、力のない声。ミレーユを気遣って平気なふりをしているようだが、きっとつらいはずだ。それなのに、いつもと同じように守ろうとしてくれている。 (うろたえてる場合じゃない……あたしが動かなくてどうするの!) 怪我一つなく元気でぴんぴんしているのに、怖いからというだけで守られては女がすたる。震える足をばちーん、とたたいて自分に気合いを入れると、ミレーユは急いで立ち上がった。 「荷物は後であたしが下ろすわ。だからあなたは小屋で休んで」 彼が何か言うより早く、身体を支えて立ち上がらせる。思った以上の重みが肩にかかってよろけてしまったが、しっかりと足を踏ん張ってこらえた。 薄暗い森小屋の中に入って彼をひとまず休ませると、すぐにまた外に出る。馬を小屋の裏手に連れていって繫ぎ、苦労して大きな荷物を下ろすと、急いで中へ戻った。 まず何はともあれ怪我の手当てだ。床に荷物を広げ、使えそうなものを集めてリヒャルトのもとに駆け寄る。外套をはずし、おっかなびっくり上着を脱がせた。思った以上に痛みがあるようで、中に着ているシャツまで脱がせるのは難しそうだ。 「あやしい人とか追っ手とかはいなかったわ。霧がまた濃くなってた。──シャツを破るから、痛かったらごめんね」 安心させようと一応報告をしながら、ナイフでシャツの袖を切り裂く。真っ赤になっていたそれが痛々しく、ミレーユは顔をくもらせた。 (こんなになるまで我慢して、敵から逃げようと頑張ってくれたのね……) それにまったく気づかなかった自分が情けなくなると同時に、またしても彼を傷つけた者たちに対してふつふつと怒りがわいてくる。 ふと頰を触られ、驚いて顔をあげると、リヒャルトがじっと見つめていた。熱を帯びたようにぼんやりした眼差しだった。 「……また、泣かせてしまいましたね。怖い思いをさせて、すみません」 ミレーユはますます驚き、慌てて涙をぬぐった。自分でも気づいていなかったが、そういえば泣いていたような気もする。 「なにを言ってるのよ。あなたが悪いんじゃないんだから、謝らなくていいの!」 こんな時にまで相手を気遣って、自身を責めているのだろうか。また泣きそうになってしまったのをぐっとこらえ、なるべく明るい声をあげる。 「とりあえず、傷口を洗うわね。その後って、消毒とかしてもいいのかしら。痺れ薬と変な反応を起こしちゃったらいけないし」 「そうですね……じゃあ、とりあえず、洗ってくれますか」 「わかったわ」