「やっぱ、お前だよなぁ」 最終戦。俺への挑戦者となったのは、まさに予想通りの人物。「うち、ほんま嬉しいわぁ。こうしてまたセンパイと向かい合える日が来るとは……あぁ、夢みたいや」 ラズベリーベル。 かつては『フランボワーズ一世』として世界ランキング最高128位につけていた世界ランカー。 ただ、その順位のみで彼を、いや彼女を評価してはいけない。特筆すべきはメヴィオンにおける一閃座戦での活躍。ラズの大剣を振り回すスタイルは唯一無二と言っていい。何故なら大剣は「弱いとされていた」のだ。にもかかわらず、ラズは何度かトーナメントを制したことさえある。それは、単純に、物凄く強いから。大剣を使おうが何を使おうが、彼女は安定して強かった。 しかし、この世界での、この勝負においては、話が違ってくる。 メヴィオンでの彼女は成長タイプが「重騎士型」だったが、現在は「サポート型」なのだ。「大剣か?」「まっさか。正味、火力不足や。どうしようもあらへん」 気になったので聞いてみる。当たり前だが、どうやら彼女も現状はよく理解しているようだ。 そう。大剣を使っているようでは、俺には勝てない。 当然、長剣でも、短剣でも。 他に様々なスキルを上げている俺と、サポート型のうえ【剣術】しか上げ切っていないだろう彼女とでは、ステータスがあまりにも違いすぎる。それこそ、勝負にならないほどに。 だが、俺は特に心配していなかった。 ラズの表情を見ればわかる。試合開始が近付くにつれ、徐々に真顔となっていく。 ……彼女は本気だ。本気で、勝ちに来るつもりだ。 ならば、俺は安心して、受けて立てばいい。「さて、と」「何か秘策がありそうだな」「ま、センパイ相手に隠したって仕方あらへんしな」 互いに礼を済ませ、剣を構えるタイミングで、ラズベリーベルは切り札を明らかにする。 それは、彼女の取り出した剣。 俺は、いつものミスリルロングソードを。 ラズベリーベルは……「うーわ」 思わず、声が出た。 彼女の持つ、真っ黒な片刃の剣。あれは、もしや。「黒ファルや」 そう、ファルシオン。それも黒。 この武器は白と黒の二種類存在する。それぞれ特徴があり、白はクリティカル特化、そして黒は……ノックバック特化。 一時期、一閃座戦でもこの「黒ファル」が流行ったことがあった。 黒ファルVS黒ファルの定跡が整備されるほどの流行りようだった。 それだけ厄介で、強力な武器だったのだ。 何故それほど厄介なのか。その理由は、六段階目までノックバック特化で《性能強化》すれば、単なる《歩兵剣術》でもノックバック効果が発動するという「ぶっ壊れ性能」にあった。これは、相手が防御した場合でも発動する。 まともに攻撃を防げなくなるというのは、これまでの一閃座戦の常識を丸っと覆しかねない要素。 結果、出場者の八割方が黒ファルを使いだし、一閃座戦と言うよりは「黒ファル戦」と言った方がいいような状況と化した。 しかし、流行とはいつか必ず廃れるものである。『黒ファルワクチン』と呼ばれる対黒ファル必勝定跡が出場者に広く認知され、あえて黒ファルを使う旨みが全くなくなったのだ。 これは非常によくできた定跡で、練習すれば誰でも簡単に実現可能というまさに入門向きのものと言えた。そのお手軽さから、タイトル戦初出場のような初級者まで覚えている始末で、ついに黒ファルは一閃座戦から姿を消してしまう。 黒ファルワクチンで準備すべきものは、たったの一つ。レイピアだ。 剣類の中で最も攻撃モーションが早く、最も防御効果が低いという特徴を持つレイピアは、言わば黒ファルの天敵。防御効果が低いため、黒ファルの攻撃を防ぐだけで特大のノックバックをしてしまう。