どこかに隠して閉じこめておいていい人ではないのに、ふとそんなことを考えてしまう。これはさすがに異常だろうと自分でも思うから余計に悩ましい。他の誰にも見せたくないなんて、少し前までは思わなかったというのに。 『彼女、あなたといられるのが嬉しくてたまらないというのが見ていてわかりますわ。あたくしがわざわざ申し上げることではないと思いますけれど、大事にしてあげてくださいな』 先日、追いかけてきたシャルロットに言われた言葉がよみがえる。 一緒にいられて嬉しいのはこちらも同じだ。なのにそれだけで満足できないなんて、いつからこんなに贅沢になってしまったのか。 太后の部屋で、フィデリオと寄り添うように立っていたミレーユを見た時の動揺が忘れられない。あれしきのことで苛立つなんて、自分の余裕のなさが嫌になる。 (ミレーユもびっくりしていたしな……) そんなことを思いながら歩いていたら、ミレーユの館に入る直前、まさに『ばったり』という頃合いでエドゥアルトに出くわした。 「おや、リヒャ……じゃない、大公殿下。ミレーユの部屋に行くのかい?」 「あ……はい。そうですが」 夜に訪ねていくのもそのまま一晩泊まるのも、彼の許可をもらってはいるのだが、こうして直接訊かれると少したじろいでしまう。彼の敵意が増す気がするからだ。 案の定、エドゥアルトの形相が険しく引きつった。 「ふううぅん。それは奇遇だねえぇ。実は私もミレーユの部屋に行こうと思っていたんだよ。なんだか毎晩のように客があるとかで、ぜーんぜん私に構ってくれなくてねえぇ」 「そ……そうですか。では、ご一緒しましょう」 一応笑顔だが目は笑っていない未来の舅を、リヒャルトは気づかないふりで誘った。 二階の回廊から館に入り、階段を下りていく。一階部分がミレーユの暮らす生活空間だ。要所ごとに配置している警備担当の第五師団の者たち──なんでもミレーユの舎弟らしいが──がかしこまって通してくれる。 「確かにね、ミレーユの部屋に泊まってもいいと私は言ったよ? あの子が寂しい思いをしていないか、宮廷のことで追い詰められていないか、責任を持って見守りたいと言ったきみを立派だと思ったからね。だけどまさか、毎晩毎晩訪ねていくなんて思わなかったなああぁ。そんなに毎晩泊まりに行って、一体何をして過ごしているんだい? まさかとは思うけどぉ、不埒なことはしていないよねえぇえ?」 「はあ……すみません。してないです」 ねちねちと小言を言う舅と下手に出ながら聞いている大公を、お供のジャックは後ろではらはらしたように見守っている。 (もう昔のようには接してくださらないのかな……)