流れるプールを堪能したので、違うものも楽しもうという事になった。ぺたぺたと素足で階段を上っているのは、この区営施設の目玉とも言えるアトラクションだ。 きゃああーーと、子供たちの楽しげな声が響いており、夏休みらしい賑やかさに思える。 青い滑り台はぐるぐる円を描き、眼下のプールを目指している通り、これはいわゆるウォータースライダーという代物だ。 全長50メートルほどと、そこまで大きさも高さも無い。 しかし頂上へ近づくにつれ、少女の足は徐々に鈍くなる。がしっと両手で僕の腕をつかみ、絵に描いたようなへっぴり腰で薄紫色の瞳を向けてきた。「待って、待って、すごく高いわ。あなたたち、どうして平然としているの?」 そんな事を言われても……と、ぱちくりウリドラと見つめ合ってしまう。かたや高度数千メートルを飛行する魔導竜、そして僕はというと高さや距離など気にせず転移しまくるカズヒホだ。 そのことを表情で察したらしく、かくかく膝を笑わせながらマリーは冷や汗を垂らす。「ええ、もう分かったわ。非常識なあなた達に、同意を求めた私が間違っていたのね」 う、うん、マリーこそ古代迷宮で大活躍をしているのに、これくらいの高さへ怯えている方が不思議なんだけど。 まあ、文句を言いたい理由も少しは分かるかな。 ここまで登るとプール全体どころか駐車場まで見えてしまう。とはいえ子供連れのお客も多いので、安全にはしっかり配慮されているはずだ。「そうね、せめて前向きに考えることにするわ。とても重要な滑る順番を決めましょう。もちろん私は最初と最後だけは絶対に嫌」「ふ、ふ、そこは公平にジャンケンとやらで決めるべきじゃなあ。ほーれ、最初は……」「イヤッ! 先にウリドラ、最後は一廣がいいのっ! お願いお願い、それで決定なのっ!」