「――お帰りなさいませ、ご主人様」 ユカリに「シェリィを連れて帰る」と一報入れたところ、もう日暮れだというのに使用人が勢揃いで出迎えてくれた。 シェリィは伯爵令嬢にも関わらず、ファーステスト邸の異常な規模を見てぽかんと口を開けている。「シェリィ、何処が良い? 今なら湖畔がオススメだが」「そ、そこでいいわっ?」 門から敷地の中へ入ると、そこからまたしばらく移動だ。シェリィは伯爵邸の何倍も広い我が家に度肝を抜かれているようで、過ぎる景色に目を白黒とさせている。そりゃそうだ、王宮より広いもの。ナイスなリアクションに気分を良くした俺は、夕食もできるだけ豪勢な料理をとユカリに連絡しておいた。しかし今日は料理長ソブラが体調不良でお休みらしく、そこそこのクオリティの食事しか用意できないらしい。あのヤニ野郎この肝心な時に……。 湖畔の家に到着すると、ユカリとメイドが一人だけ待ち構えていた。確かエスと言ったか。赤毛の妹の方だ。どうやら滞在中のシェリィの御付きになるらしい。「ご主人様。また一つ、付与装備が完成しております」「マジか!」 シルビアとエコは自室へ戻り、シェリィが来客用の部屋へと案内されている間に、ユカリがこの留守の間の報告をしてくれる。 完成した装備は『穴熊 岩甲之籠手』――着用者のVITが150%となる“穴熊”が付与された手の防具だ。「素ン晴らしいな! またエコが堅くなる」「のちほど渡しておきます」「ああ、頼んだ」「はい。で、ですね……その」 ユカリは俺にすすすと身を寄せて、上目づかいで恥ずかしそうに聞いてくる。 いくら察しの悪い俺でも流石に気が付いた。最後まで言わせまいと、俺はユカリの頭から首筋にかけてゆっくりと撫でて、今夜の約束を取り付ける。はにかむ彼女は相も変わらず妖艶で、美しく、そして可愛らしかった。「いちゃついてる、とこ、悪いんですけどー」 と、そこへ何処からともなく拗ねたような表情のウィンフィルドが現れる。まったく心臓に悪い。自宅の中とはいえ神出鬼没なのは人非ざる存在だからだろうか。「予想通り、戦局、動きそーなんだよ、ねー」 彼女はあっけらかんとそんなことを言う。それってかなりの大事では……?「バウェル国王が、公文書の開示を命令してから、しばらく経って。いよいよ、開示するってさ」「改ざんが済んだってわけ? この短期間で?」「うん。第二騎士団だけじゃなくて、第三騎士団からも、協定違反はあったって声が、あがってる中、よくやった方だと思うよ」 まるで夏休みの宿題を7月中に終わらせた小学生を褒めるように、ぱちぱちと手を叩くウィンフィルド。その余裕っぷりが何とも頼もしい。「公文書の原本、ゲットしちゃお。ねっ?」 よしきた。満を持して、俺の出番というわけだな。「ってことで、シルビアさん、呼んできてー」 ……まだだったようだ。