馬を全力で走らせて、湖が見えて来た。 周りの木々が邪魔で周辺の様子は見えないけれど、この森を抜けたらきっと二人の姿が見えるはず。 逸る気持ちで馬を走らせて、とうとう森を抜けた。 私は馬の歩みを止めて、急いであたりを見渡すと、左側の少し離れた場所で木につながれた馬が草を食んでいるのが見えた。 これは、ゲスリーとカイン様の馬だ。 そしてさらに視線を奥に向けると……。「殿下、カイン様……!」 二人の姿を見つけて慌てて馬を走らせた。 だって、何故かカイン様も、ゲスリーも剣を持って向き合ってるんだもん! 慌てて馬をかける私に気づいた二人がこちらに顔を向ける。 私はさらに声を張り上げた。「殿下に、カイン様! こんなところで、何を……!」 慌ててる私とは反対に、二人は落ち着いてるように見える。ゆっくりと二人とも剣を下ろした。 カイン様に至っては、私が来たことが相当な驚きだったらしく目を見開いて、ちょっと不思議そうな顔をしてる。 私は慌てて馬から降りて二人に駆け寄った。「剣なんか持って、な、何をするつもりなんですか!」 ゼエゼエ息を息をしながら、私がかばうようにカイン様の前に出ると、私にキッと睨まれたゲスリーがにっこり笑った。「何って、剣の稽古をつけてもらっていただけだが」「剣なんか持ち出してこんなの言い逃れ……ん、稽古?」 え、いま稽古って言った? 少々落ち着いて来た私は、改めて二人が持っている得物を見ると、木剣だった。刃も潰されてる。 これは間違いなく、稽古とかに使うやつ。「ゲス……ヘンリー殿下は、剣術も嗜んでいらっしゃるのですか?」「まあ、多少はね」 マジか……。 なんでそんな……魔法使いなのにアンタ……。 私は恐る恐るカイン様の方を見た。 ちょっと困ったような笑みをうかべるカイン様がいる。「たまに、殿下の剣術のお相手を務めることがあるんだ」 え、何これ、じゃあ、私の勘違い……? なんかすごい焦って、相当めちゃくちゃ焦ってここまであわててやってきた私の苦労は一体……。 いや、でも、だって! そもそもゲスリーが私を閉じ込めたのがおかしいじゃないか! 不穏な発言もするし! 私はなんかいたたまれない気持ちを隠すようにキッと再びゲスリーを睨みあげた。「殿下は、カイン様に稽古をつけてもらいたくて、わざわざ私を閉じ込めて、わざわざこちらまで一人で馬を駆ってやって来たってことですか?」 私がそういうと、ゲスリーはコテっと首を傾げた。 美少女がやればそりゃあもう可愛いしぐさだが、ゲスリーなので全然可愛くない。「別に、閉じ込めたつもりはない。私が不在の間、誰かがひよこちゃんを傷つけないように、安全な場所に置いただけだ」 そんなの信じられるかい!「安全な場所って、あんな、あんな地下の薄暗いところって、安全な場所っていうか、ただの檻じゃないですか!」「あの寝床は気に入らなかったか」 気に入らないに決まってるわ! ええ!? 何この流れ! 私の早とちり!?「それより、もっとこっちへおいで、ひよこちゃん」 と言われたかと思うとゲスリーが私の手をとって引っ張り、そのまま抱き込んできた。 なんなのいきなり! そんな婚約者ムーブしたって私の怒りは治まらんぞ! 私は睨みつけるため顔を上げると、面白そうに私を見下ろして笑うヘンリーがいた。「そう。私は、確かめるためにここにきた」 そうゲスリーが言うと、再び口を開く。「キミガタメ ハルノノニイデテ ワカナツム ワガコロモテニ ユキハフリツツ」 え? なんで、いきなり……呪文? この呪文は確か……。 と考えていると、後ろから「グッ……ガハッ……」という何かを吐き出すような音が聞こえてきた。