あ、なるほど。こういうシンプルな物のほうが、幻想世界の住人であるエルフは興味を持つのか。 昔の扇風機はもっとゴテゴテとして重そうだったけれど、最近はすっきりとしたデザインが中心らしい。涼しげな風に、少女は気持ちよさそうに目を細めていた。「値段もずいぶん安いのね……、決めたわ、私の願いはこれにする」「え、こんなので良いのかい? もう少し楽しそうなものにしても良いのに」「ううん、これが私にとって理想なの。この風力をずっと夢見ていたわ」 夢見て、いた……? ん、どういう意味なのかな? そう少女から謎めいたことを言われ、黒猫と僕はきょとんとさせられる。 一応と部屋にはエアコンもあるのだし、それほど必要とは思えないのだけど。しかし少女はキラキラとした瞳をしており、何のことやらと黒猫と僕は見つめあう。 うーん、好奇心に駆られて買い物をするのは初めてかもしれないぞ。 会計を済ませると、僕らは扇風機の箱を手に帰宅することにした。「あああーー、なるほど!」 ごう、と冷たい風を送られ、ようやく扇風機を選んだ理由に気づかされた。 少女は耳隠しを外し、エルフらしい長耳を揺らして近づいてくる。その表情はどこか得意げで、真っ白い髪をかきあげて座り込んだ僕へと覗き込んできた。 そして視線を戻すと、そこには先ほど買ったばかりの扇風機、そして氷の柱が風の通り道へ並べられている。するとエアコンのように冷やされた空気が流れ、部屋を涼しくしてしまう。 透明の身体をふわふわと漂わせているクラゲ状のものは、フラウと呼ばれる氷の精霊らしい。お風呂に残っていた水を凍らせて氷柱を作り、そして溶けた水をまた氷へ変える役目を持っている。 タッパーの上へ乗せているけれど、足元までしっかり凍っているので倒れる心配も無さそうだ。「んふふー、そういうこと。この世界ではまだ2つの精霊を同時に操れないから、この扇風機が私にとって理想的だったの」「いやぁ、これは驚いたなー……。え、電気代が一時間で1円!?」