フィーアは鋭い。基本的に抜けているし、とぼけているが、肝心な時には物事の本質を掴んでいる。私が沈黙を保っていると、フィーアは何とも言い難い表情で唇を噛みしめた。「……悲しい話です。多分、何か一つが正されていたら、起こらなかった事件じゃないでしょうか」フィーアはぽつりと呟くと、自分の広げた両手を見つめた。「私は聖女様というのは、職業の一つだと思っています」「……職業の一つですか? 聖女様が?」思ってもいない発言を聞いて、私は心から驚いた。神から選ばれた御力を持った者だけがなれる聖女様が、職業の一つだなどと……「はい。料理が上手な方が料理人になるように、回復魔法が使える方が聖女様になると思っています。ですから、聖女様の立場が歪んでしまっていることに、全ての原因があるように思います」「ああ、あなたは聖女様に独特の考えをお持ちでしたね……」言いながら、私は手に持っていたグラスをテーブルに置くと、フィーアに向き直った。「フィーア、アルコールが入っていた時の話なので覚えていないのかもしれませんが、以前、あなたは聖女様のあるべき姿について意見を述べました。『聖女は女神と異なり、遠くて、気まぐれ程度にしか救いを与えない存在ではない。聖女は騎士の盾だ』と。その言葉を聞いた瞬間、私は胸を射抜かれたような気持になりました……」フィーアの言葉を聞いた瞬間の感情が蘇り、一瞬、胸を刺される。私は気持ちを持ち直すように、ぐっと拳を握りしめると、言葉を続けた。