そう声も出せずに驚いていると、ひょいと戸口から覗いてくる子がいた。その子は腰までの長い髪を揺らしており、やっといま幽霊がいたことに気づいたような表情を浮かべた。「まあ、シャーリーもついてきたのね。まさか一廣さんがお休みを連絡したあとに、身体が重い理由に気づいてしまうなんてー」「う、うん、その棒読みはなにかな?」 タオルを手にしたまま振り返ると、二人の少女は瞳をそっと反らしていた。悪戯がバレてしまった表情であり、心境的にはそれと近しいのだろう。そろそろと戸口の外に消えていってしまうエルフさんを見て、最初から見抜かれていたのだとようやく気づいた。 残されたのは肩を握ったまま「ごめんなさい」と眉をハの字にさせるシャーリーであり、またお台所で朝食を作り始めたらしい調理の音だ。 今さら休みを取り消すのも、憑かれたまま会社に行くのも難しい。ふむと僕は頷いてから残っていた水気をタオルで拭いた。「おはよう、シャーリー」 そう声をかけてみると、おずおずと「おはようございます」と言う風に唇を動かしてくる。 身体の重さを謝っているらしいけど、原因が分かれば困ることは何もない。タオルを放ると鏡越しの彼女に向かって内緒話をするように小声で話しかけた。「これからエルフ族の子と、幽霊のお客様をどうやって持てなすかを決める大事な相談をするんだ。もし良かったらだけど、その秘密会議に参加してくれないかな?」 彼女の耳元に手を置いて、そんな相談をすると青空色の瞳は見開かれる。それからこくこくと何度も頷いてきて、嬉しいのか宙で泳ぐように足を揺らす。「じゃあ決まりだ。マリーの作る朝食は美味しいからそっちも期待してくれると……あれ、どうしたの?」 戸口に足を向けかけると、彼女はなにかを訴えかけてくる。それは僕の手に指をさすという動きであり、どんな意味があるのかはまったく分からない。 怪訝に思いながらも手を近づけてみると、シャーリーは肩から指を離して本格的に宙を漂う。すると途端に身体の重さは消え去って、本来の体調に戻るのを感じた。「あ、離れると軽くなるんだっけ。それで僕の手をどうするの?」