池谷がまた不祥事を起こして事件にならないよう、目を光らせてるのか。 ま、女の力というか、恋人の力がとてつもないことは同意だ。俺ですら、バラバラだった心が薔薇薔薇へと変化するくらいだもん。 きっと池谷の母親も、馬場色の日々……じゃなかった。バラ色の日々を送っているに違いない。性癖の一致は幸せ以外の何物でもないだろ。 ………… あ、ナポリたんは百合百合一歩手前だった。ま、いっか。「はは、そう言うな祐介。理由はともかく今はありがたいことだ。それに、佳世は……」「……佳世がどうかしたの?」「ん、いや……まあ、まだどうなるかわからないから、わかったら言うことにする。それに部活が始まったら、ボクにもいろいろ出来ることがあるから」「……そだね。ハヤト兄ぃが帰ってくるまで、バスケ部を守らないと」「……おう、まかせろ」 歯を見せて笑いながら、力こぶを作るようなポーズを取るナポリたん。 もう一度ハヤト兄ぃとバスケができる、ってことが楽しみで楽しみでしかたないようで、少しだけほほえましい。 だけど、気のせいか。 ナポリたんの笑顔に少しだけ陰りが見えるのは。「ジェ、ジェームスさんなら余裕ですよね! 伝説の仕事人ですから」「まだその設定憶えてたの……」 三人で、今日も表面上はいつものなごやかムード。 かつては修羅場に身を投じた自分が、今こうやって笑えてることの幸せさに溺れたくなってて。 なんとなく、平和な日々が続くといいな、そう思ってたんだけど。 ──ある一人の女子学生の退学を機に、また一波乱が起きるなどと、この時の俺は思いもしなかった。