泣きの1回 ~寸止め地獄~ お許しをいただけたとしても、調教に容赦はありませんでした。 ご主人様は正座した私の目の前にバッグを置くと、その中から次々とお道具を取り出し始めたんです。 この人は本気だ、と思いました。 本気で朝まで私を寝かせず、明日も極限まで責めるつもりなんだと、思い知らされました。 これまでの調教で、身も心も疲れ果てています。今から朝まで一睡もせずに罰を受け続けて、さらに明日の調教が始まれば、絶対に耐えられない。間違いなくNGワードを口走ってしまう……という確信がありました。 でも、それを言いたくはありませんでした。私はどうしても、ギブアップをしたくなかったんです。 それは単に、私の意地のようなものかもしれません。 それ見たことか。 君の決意なんてそんなものか。 自分で言い出したくせに…… ご主人様にそう思われてしまうことが、私にはもっと耐えられないことなんです。 それは、私の妄想? そうですね。ご主人様はそんな人ではないと私も思います。でも、「私が」その想像に耐えられないんです。 だから私は、何が何でもご主人様の求めるものに応えたいんです。 なのに、今回こそはその願いが叶えられない……「あ、あのっ、ご主人様っ!」 私はなけなしの勇気を振り絞って、私を責めるお道具を選んでいたご主人様に声をかけました。「どうか、どうかお願いします! もう一度だけやらせてください! 私にもう一度だけ、チャンスをください!!」 私は再び深々と頭を下げて、必死に懇願しました。 それがどんな結果をもたらすかは分かりませんでした。もう一度お仕置きをされるかもしれず、私の言うことなんて無視されるかもしれません。 でも、せめてもう一度勝負してもらえれば、勝つチャンスがあるかもしれません。たとえどんなに低い確率でも、私はそれに賭けるしかありませんでした。「……まあ、そう、だね」 しばらくの沈黙の後、ご主人様は優しく言いました。「君も一つ壁も越えられたことだし、泣きの勝負をしてあげてもいい」 その言葉を聞いて、私は感謝の気持ちでいっぱいになりました。ささやかな希望が叶えられただけでも、本当に嬉しかったんです。「でも、ただではないよ?」 と、当たり前のことのように付け加えられ、私は固まってしまいました。 救いの手を取るには、何か対価が必要だったんです。「そのためには、どうすればいいと思う?」 そう聞かれても、何をすればいいかという返事は出ませんでした。 答えられるのは、たぶん一回だけです。その返事次第で、私の運命が決まるんです。 疲れ果てた頭を必死に働かせて、何を言うべきかを考えました。泣きの勝負に見合う対価、ご主人様の求めるもの、いくつか浮かんだ考えはどれも不正解のように思えて、すぐには答えられませんでした。 なので、私は考えを変えました。 私は大きく息を吸ってから、「寸止めを、してください! あなたが満足するまで、何度でも!」 と、大声で叫びました。 その答えは、ほとんどやけくそのように聞こえたかもしれません。追い詰められた私には、自分の返事が持つ意味を考える余裕がありませんでした。 ご主人様はいつも、私を限界以上に追い詰めます。もう無理と思えるところを超えた向こう側に、私を連れて行こうとするんです。 だから。 私が今一番されたくないこと。 それを差し出すしかないと思ったんです。 これまで何度も寸止めされて、身体は昂ぶりきっています。この上もっと責められたら、本当に発狂するかもしれません。 その恐怖を押し潰し、私は自分で自分を苦しめることを選びました。 その返事に、ご主人様は満足されたようでした。無言のまま私を抱きしめて、首筋に舌を這わせます。