さて、気を取り直して大正浪漫の館を楽しむことにする。 和風庭園だけでなく、洋風の造りまで楽しめるのが本館の特徴だろう。 和の本髄を見せられ、そして少し廊下を歩いたら本格西洋の間が待っている。外から見たときも、この一角だけ外壁を洋式にしていた記憶が蘇る。 落ち着いた暖炉、茶柄のソファーがテーブルを囲んでいる光景へ、部屋を覗き込んだ皆は目を丸くした。「わっ、こじんまりとした部屋なのに、明るくて素敵だわ。窓がとても多いせいかしら?」「むうん、落ち着いておるのう。だだっ広く、ゴテゴテとした飾りを好む貴族どもに見せてやりたいものじゃ」 モザイク柄の床といい、当時にしては珍しい白漆喰の天井といい、大正時代の息吹を感じるものだ。 こじんまりとした空間を好む日本人らしい造りへ、皆は熱心に眺めている……けれど、ウリドラ、それにシャーリーの視線が不自然に思えるほどすごい。じろじろと辺りを観察し、ステンドグラスの窓やら壁の模様に至るまで、全て記憶するような勢いだ。 うん、2人とも隠れて何かを企んでいるのかな? そういえばウリドラは第二階層の手伝いをしていると言っていたけれど……もしかしてそれと関係がある、とか? などと考えているとき、僕の腕に抱きついていたマリーから見上げられる。「ねえ、ここでならゆったりと読書を楽しめそうじゃないかしら? 家具に興味は無かったけれど、実際に見てみると憧れるわね」「あ、そうだった。僕もソファーは悩んでいたんだよ。もしマリーも気に入ったなら、近いうちに家具屋さんへ行ってみようか」 ぱっと花が咲くように少女は微笑む。 それはきっと、このような空間を目にしたからだろうし、実際の生活をリアルに想像できたおかげだろう。 ただボーナスには限りがあるので、海への旅行費用も考えておかないといけない。 ふむ、そういえば今日は月曜日なのだし、同じマンションに住む薫子さんはお休みだ。あとで連絡をして、都合が合うなら相談しに行こうかな。 そんな事を考えているうち、ウリドラとシャーリーに問いかけることを、僕はすっかりと忘れてしまった。 うーん、と外へ出た2人は揃って伸びをする。 外見はまるで異なるけれど仕草も表情も似ているものだから、僕の目からは姉妹のように見えてしまう。 ここにきっとシャーリーも加わるんじゃないかな。魔導竜とエルフというまるで異なる間柄なのに、こうして楽しく過ごしている姿を見ているとそう感じてしまう。 山本亭を堪能した僕らは、店員さんに挨拶をしてから外へ出ることにした。やはり空には青空が待っており、梅雨時期を乗り越えたからこそ気持ちよく感じられるものだ。 午後を過ぎると少しだけ暑さは和らぎ、入ってきたときとは異なる清涼感を僕らは感じていた。「んーー、すっきりしたわ! たまにはまるで異なる世界を見るのも素敵ね」「うむ、風情というものを感じる有意義な観光じゃったな。……しかしこれで100円とは、わしの金銭感覚が狂いそうでもある」 まあ、地域で守っている文化財というのは、そういうものだからね。そのぶん気軽に何度でも訪れてください、という意味があるんじゃないかな。 最近まで大きな補修をしていたようだし、収益は全てそこへ使っているのかもしれないよ。「じゃあ、最後に写真を撮ろうか。2人とも、山本亭は何点だったかな?」「んふ、100円だけに100点っ!」 おや、まさかエルフさんの駄洒落を聞けるだなんて。 がはっ!とウリドラは下らなさにお腹をかかえて笑い、顔を赤くしたマリー共々フィルムに収めさせていただいたよ。 くふう、とシャーリーもたまらず吹き出したのは、どうやら僕の口端を緩ませようとしているらしい。 そのように和の風情や庭園を知るための小さな旅を、皆は満喫してくれたようだ。