「……うん。琴音ちゃんの言う通りだ」 すがすがしい気持ちで、琴音ちゃんの言葉に同意する俺。 佳世に対する恨みなど、今の俺たちには些細なことだ。 許すとか許さないとかどうでもいい。「けじめは受け取ったよ、佳世。でもな、むしろ俺たちが謝罪しないとならないのかもしれない」 ──佳世がこんなに不幸なのに、俺と琴音ちゃんがこんなに幸せで、ごめんな。もうこれ以上、わざとらしく自分自身を痛めつけなくていいから、贖罪の気持ちは心の奥にとどめておいて、自分なりの幸せを探してくれ。 その言葉だけは、かろうじて飲み込んだ。「あ、あああ、ああああああぁぁぁぁぁぁ……ああああぁぁぁぁ……」 俺の言葉の裏に気づいたのか。 やがて佳世は、臥せりながらひたすら泣き始める。 俺たちは、これ以上かける言葉など思いつかないまま。 昼休みが終わるまで、ただただ嗚咽を漏らす一人の自業自得女を、憐れみとともに眺めるだけだった。 ……まわりの視線が痛い。 ―・―・―・―・―・―・―「……ねえ、ナポリたん」「なんだ?」 カルマが浄化された昼休みを経て、放課後。 俺は訊きたいことがあって、ナポリたんの教室へ突撃した。「推測に過ぎないんだけど……佳世になんか余計なこと言った?」「んん? いや、ボクはお前たちのことは何も言ってないぞ? ただ……」「やっぱりなんか言ったのか」「来年度早々、ハヤト兄ぃが教育実習でウチの高校に来るって正式に決まったと、連絡があったことを伝えただけ」「ハヤト兄ぃが!? マジか!! ウチの高校のOBってことは知ってたけど……」 ちなみにハヤト兄ぃとは。 小学生だった俺と佳世とナポリたんにバスケを教えてくれた、五歳年上のお兄さんだ。今は都心の大学へ通っている。 ま、俺は中学進学時にバスケからは足を洗ったが、佳世とナポリたんにとっては恩人ともいうべき人物だろう。「ああ。『あの頃は楽しかったよな、ただ一緒に遊んでいるだけでさ』と、昔を思い出しながら佳世と話はしたがな。それだけだ」 なんとなくだけど。 それを聞いて、佳世がいきなり坊主頭にした理由が分かった気がする。 嘘に嘘を重ねて、身動きが取れなくなった今と比べて。 幼なじみとしての歴史は、佳世にとってもそれなりに重かったらしい。