砂蜥蜴製の金属を貼った手袋を外し、カークに渡す。 彼には少々大きかったが、手首のベルトをきつめにして合わせていた。 疾風の魔剣を手にしたカークは、ヴォルフと同じく、木の前で枝を地面に刺す。「じゃ、投げます!」 カークは右手だけで投擲した。 少し右に逸れたかと思った短剣は、高い風切り音を上げて軌道を変え、思いきり木に刺さる。ヴォルフが投げたときよりもさらに早い。 気がつけば、枝は音もなく地面に散っていた。「疾風の魔剣って、風魔法と凄く相性いいです!」 明るく言うカークに、周囲の者達は目を丸くし、口をぱかりと開けている者もいる。「ほとんど見えぬほどの速さだったな」「おい、カーク、どんな魔法を使った?」「短剣を風魔法で押して、あと、ずれたので軌道をちょっと補正しました」「そうか、疾風の魔剣は風魔法と相性がいいのか……」 同じ系統の魔法で、相乗効果が出たらしい。あの威力は、ちょっとうらやましい。「おい、大丈夫なのか? 魔剣って高いだろ。もし、魔物に刺さってそのまま持ってかれたら……」「持ってかれるのは困るけど、使う魔物を選べば平気だよ。その辺りに落ちたら回収するし、刺したまま逃げようとしたら、その魔物をなんとかする」「ヴォルフ先輩なら、なんとかできますよね!」「そうだな。お前、空走れるもんな……」 納得したらしいドリノは遠い目で言うが、周囲からの反論はない。「楽しそうなことをやっているな」 こちらに歩いてきたのは、魔物討伐部隊長のグラートだ。 今回、副隊長のグリゼルダは王城待機となっている。 グラートに短剣について尋ねられたので、ダリヤのことは伏せ、屋敷から持ってきた武器として説明した。「スカルファロット家の『疾風の魔剣』か……使えるかもしれんな。首長大鳥で試してみてもかまわんぞ」 本日の討伐対象は、首長大鳥という魔物である。 鷺を巨大化させ、肉付きを少しよくしたような鳥だ。体は白で、羽根先の濃茶へとグラデーションになっている。 草食であり、山野にいてくれるなら問題ない。 人里近くに来て、果樹園や麦を撒いた畑を狙うのが困りものである。 果樹は枝ごと食べ、翌年の収穫までもなくしてしまう。 麦畑にいたっては、やわらかい土ごと麦を食べ、その後に土を魔法でがちがちに固めて帰る。 また、食事を邪魔されたりすると、土魔法の石礫で攻撃してくる。 なんとも厄介な習性の鳥である。 小さい個体であれば村人でも倒せるが、今回は高さで三メートルほどと報告書にあった。 長く生きているか、変異種の可能性もある大きさだ。 そのため、魔物討伐部隊が呼ばれることになった。 どんな魔物でも怖いときには怖い。 首長大鳥も、人や獣は食べぬとはいえ、翼を広げればかなりの横幅になる。 その体から生み出される土魔法は脅威だ。 数年前、石礫が目から頭内に入り、亡くなった魔導師もいる。 この為、今回は前に出る魔導師も革兜をつけ、目の部分は銀網でカバーすることになっている。「狙うとすれば、やはり翼でしょうか?」「そうだな、風切羽でも狙えれば楽になるが。羽根に少し当たるだけでも違うだろう。ただし、狙っていいのは遠距離攻撃で空にいるときだけだぞ。隊員をスライスされてはかなわんからな」 グラートはそう言って笑ったが、さっきのカークの投擲を見ていた者達は、引きつった笑いになる。 断面のきれいな怪我は治りやすくはあるが、それでも全力で遠慮したい。 その後、首長大鳥への作戦を話し合い、待ち伏せの場所へと移動することとなった。