鈴木いちご。 彼は、実におかしな両親のもとに生まれた。 父親はいちごを自分の子供だとは認めたがらず、いちごが生まれたその日に姿をくらました。 母親は生まれた赤ん坊を頑なに娘だと言い張り『いちご』と名付けた。しかし、しっかりとチンチンは付いていた。 以降、いちごは母親によって女の子として育てられる。 誕生日は四月一日。親戚一同からは「嘘みたいな子供」だと言われていた。 小学校入学と同時に、いちごに転機が訪れる。 いじめだ。 それもそのはず、鈴木いちごという女の子の名前に、女の子の服、可愛らしい顔。しかし性別は男。周囲の六歳児たちは、気味悪がった。避けた。馬鹿にした。ばい菌扱いした。「どうしてうちはこうなんやろ」 六歳のいちごには、自分が何故いじめられるのか、自分は何故女の子の格好をしているのか、自分には何故母親しかいないのか、理解できなかった。 来る日も来る日もいじめられ、わけもわからず耐え続ける。 それでも女の子の格好をし続けたいちごに、いつの日か、クラスメイトは話しかけすらしなくなった。「あの子にはなるべく近付かないように」と。各家庭内で子供への忠告があったのだ。 当たり前であった。鈴木いちごの母親は何処かがおかしい。母親同士で交流しているうち、いちごを女の子と信じて疑わないその母親の狂った様子を見て、周囲が気付き始めたのだ。 こうして、いちごは独りになった。 相変わらず、女の子の格好は続けていた。 六年生の時。いちごに第二の転機が訪れる。 中学受験だ。 いちごはとにかく地元を離れようと、関東の公立中学校へ入学を決めた。 入学式。彼はカルチャーショックを受ける。 ピッカピカの金髪に眉毛のない同級生、もはや同じ服とは思えないほどアレンジされた制服、マスク、エクステ、つけまつ毛、金属バット、などなど。 そこは不良の巣窟であった。「ここならうちも目立たへんな!」 当時、ようやっと女装しているという自覚が出てきたいちご。この学校なら自分もやっていけると、前途洋々たる気分で入学した。 だが、そう甘くはなかった。 彼の制服は、当然ながら女子制服。そして、見た目も声も完全に可愛らしい女子生徒。当初、クラスメイトはいちごのことを女子としか認識していなかった。 ある日、事件が起こる。いちごが男子便所へと正面切って突入したのだ。 愕然とする男子たちへ向かって、一言。「うち、男やで?」 思春期真っただ中の男子は、いちごにどう接していいか途端にわからなくなった。 一方で女子も、別に心が女であるというわけでもないいちごに、どう接していいかわからなかった。 結果。 いちごはものの見事に浮いた。 不良は不良で固まり、陽キャは陽キャで、陰キャは陰キャでと、グループがどんどん固まっていく中。女装子は女装子で固まることができればよかったのだが、生憎とこの中学校に女装子はいちご一人であった。「また独りや……」