「カナン、朝だぞ」「ん~、ケンイチ……」 カナンの身体を揺すってみるのだが、いくらゆさゆさしても起きない。 俺は起こすのを諦めて、皆のところへ戻ると、メイドたちが食事の準備をしていた。 辺りに、スープのいい匂いが充満している。 彼女たちには、野菜や肉などの材料を預けており、それを使ったようだ。 大量にスープを作ったというので、味見をしてみる。材料の中には、だしの素なども含まれていたのだが、上手く使いこなしている。「おっ! 美味いな! 俺たちの食事に使ってもいいか?」「もちろんでございます」 彼女たちの顔が明るくなる。よし、プリムラがいないときは、スープの準備はメイドたちに任せよう。 これなら、このスープにカレールウを入れれば、カレーにもできるし。 大量に余っても、俺のアイテムBOXに入れておけばいい。「むーおはようケンイチ。パンを焼く……」「おはようアネモネ」 目を擦りながら、彼女がパンを焼き始めた。 メイドたちがパンの焼き方を覚えたいと言うので、見学させる。 アネモネは魔法を使って、早送りをしているが、時間をかければメイドたちでも同じものが作れる。 手順は覚えたようなので、アネモネが使っているのと同じ、ドーナツ型のパン焼き器を複数買い与えた。 このパン焼き器は、窯がなくても焼ける優れものだ。 この世界にも似たようなパン焼き器が存在しており、メイドたちの中にも実家で使っていた者もいるようだ。 それなら任せても大丈夫だな。アネモネが忙しいときは、彼女たちにパンを焼いてもらえばいい。 小麦粉や砂糖などを俺から提供すれば、まったく同じものが作れるだろう。 食事の準備をしていると皆が起きてきたので、準備を手伝ってもらい朝食を摂る。 ベルにも食事をあげた。「こういう準備も人を雇って、やってもらうことになるのか――そう考えると、ちょっと寂しいね」「ケンイチは貴族になったのだから、仕方あるまい?」 リリスが、パンをむしゃむしゃと頬張りながら答える。「でも貧乏貴族なら、自分でやっているところもあるだろう?」「まぁ地方の男爵ぐらいなら、そういうこともあり得るだろうが……」 ノースポール男爵の所とかは、そんな感じかなぁ……彼は元気でやっているだろうか。