うちの背中も撫なでてにゃ……」「はいはい」 ミャレーの背中をブラッシングしてやると、彼女は気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。 だが、ブラシが尻尾の根本に当たると、ピクピクと反応している。「そ、そこはダメだにゃ……」「あ、ごめんごめん、尻尾の所は苦手なのか」 ピクピクと痙攣している丸いお尻をブラッシングして太腿まで撫なでると結構抜け毛が絡んでいる。「結構、毛が抜けるなぁ」「だから毎日手入れしないと大変なんだにゃ」 ペットを飼っていると抜け毛が凄いからな。特に季節替わりは凄い。「ふにゃ~」 潤んだ瞳になったミャレーが仰向きになって白い毛で覆われた腹を出している。今度はお腹を撫なでて欲しいらしい。 お腹は、さらに細かい毛でフカフカだ。 俺とミャレーの様子を見ていた男共が、突然服を脱ぐと俺に背中を向けてきた。まるで肉の壁だ。 どうやら彼等も撫なでてほしいらしい。「待て待て、ブラシを一個ずつ出して、やるから自分等でやってくれ」「旦那。そりゃ、ないですぜぇ」「何が悲しくて男の背中を撫なでないとダメなんだよ」 シャングリ・ラからキャットブラシを3つ購入して、彼等に1つずつ渡す。「それが欲しいなら売ってやるぞ。獲物1個と交換だ」「本当にそれで良いんで?」「ああ」 返事をすると獣人達は喜んで体中をブラッシングし始めた。当然、部屋の中には毛が舞い散る。 おいおい外でやってくれないかなぁ……こいつ等が帰ったら掃除機を掛けよう。 それを見ていたら森猫とミャレーが一緒に俺の身体にスリスリをしてくる。まったく俺の服まで毛だらけじゃないか。 獣人達との交流はこんな調子だ。基本的に素直で気立ての良い奴ばかりなので付き合い易い。嘘を吐つくのも下手なようだしな。 彼等は計算が出来ないので、手間賃を少々貰って取引の立会人になってやる事も多くなった。 生活が安定してきたので――ウチの畑で取れる野菜以外は、なるべく市場で野菜を買うようにして、シャングリ・ラを使う機会を減らしている。 市場で大量に野菜を買っても、アイテムBOXへ入れておけば、いつでも新鮮なままで料理に使えるからな。 だが品種改良が進んだ元世界の野菜とくらべて、こちらの物は味が落ちる。それ故、ついついシャングリ・ラを使ってしまう。 その他にも、コーヒーも飲みたいし、コーラも飲みたいし、アイスだって食いたいからな。 アイスやポテチはこの世界の原料で作れない事も無いが……機会があれば色々と試してみたいとは思っている。 一時期、市場は俺という珍しい存在の噂でもちきりになっていたが、その噂の主がたまにしか露店を出さなくなって、いつの間にか話題にも上がらなくなったようだ。 人々は勝手に――奴は破産した、病気になった、死んだ、引っ越した――などと勝手な憶測をしているようだが、それで良い。 それでも写本をやっている爺さんのように固定客もいるので、たまに露店を開いていると――まだ、生きてたよ――なんて話し声がどこからか聞こえてくる。 余裕が出来たので、マロウ商会との取引も少なくなってしまったが、商会へ貴族からの注文は引き続き入っているという。 だが手持ちの物を全部卸してしまったので、在庫が無くなってしまいました――という事にして商品を卸すのを断っている。 マロウ商会へ行く事は少なくなったのだが、その代わりプリムラさんが度々ここへ訪れるようになっていた。「しかし、良かったのですか? マロウ商会が家名を名乗れるようになったのは、ケンイチさんが描いてくれた絵のお陰ですのに……」「ああ、その事でしたら構いませんよ。以前に言った通り飯を普通に食えるぐらいの稼ぎがあれば良いのです。逆に名前を出されると困ってしまいます。ハハハ」 マロウ商会としても俺の名前を出すと貴族や他の商人達が、俺の所へ直接押し寄せてしまうので、それは避けたいだろう。