「………………は」ザビリアが戦うところを初めて見たけれど、あまりの強さに意味を成す言葉を紡ぐことができず、私はぱくぱくと口を動かした。……なっ、なに今の?ザ、ザビリアってあんなに強かったの?で、でも、まだ子どものはずで……驚いたのは周りの騎士たちも同じようで、誰一人動くこともできず、ただ茫然と立ち尽くしていた。全員がぼんやりと見つめる中、ザビリアはゆったりと降下してくると、私の近くに舞い降りた。そうして、行儀よく背筋を伸ばすと、静かに私を見つめてくる。私はまだ茫然としていたけれど、助けてくれたお礼を言おうとザビリアを仰ぎ見た。そうして、あれ?と、ザビリアの外見に違和感を覚える。「……ザビリア、あなた、角が生えていたっけ?」よく見るとザビリアの額の中心に、一本の立派な角が生えていた。けれど、あんなの今までなかった気がするんだけど……え、あったっけ?「……フィーア、僕は王になろうと思う」混乱している私に向かってザビリアは、決意を込めてつぶやいた。「え? お、王様?」突然の話に、驚いて聞き返す。え、というか、クェンティン団長とかは既にザビリアを黒竜王って呼んでいたと思うけど?驚く私を見て、ザビリアは「うん」と小さくつぶやいた。「群れで行動する魔物は大勢いるから、僕だけでは、数の力に負ける時がいつかくる。だから、僕は竜王になって全ての竜を従えてくるよ」「え……、あ……、うん。ザビリアがそうしたいなら……」そういえば、前にも王になるべきかどうかって話をしていたわよね。ザビリアの希望なら……肯定するしかないわ。私はザビリアの希望を認めなきゃと思いながらも、離れていく寂しさにしょんぼりとする。「フィーア、黒竜はね、王になると角が3本生えるんだよ。僕はずっと王になりたいと思ったこともなかったし、なり方も分からなかったけど、あなたを守ろうとしたら1本生えた。……そうだよね。一人きりの王なんていないから、僕は大勢の竜たちを守り従えた時に初めて王になれて、証としての角が3本生えるのだろうね」ザビリアはじっと私を見つめると、ふふふと笑った。「フィーアの無茶っぷりは、僕の想定を上回るからね。あなたを守れる存在になって、出直してくるよ」そう言いながら、ザビリアは前足を使うと、額の中心から生えていた角をごきんと折った。「……は?!」私は驚いてザビリアを振り仰いだけれど、その時には既に重々しい音とともに、大人の背丈ほどもある角が地面に突き刺さっていた。「せ、せっかく生えたのに……! なんてことを……」「こ、こ、こ、黒竜王様の角がぁああああああああああああ……!!」私の声が完全にかき消えるほどの大声で、クェンティン団長が叫ぶ。