「あれ、一人だけですか?」 ここ最近ずっとアリスさんの傍に居た、あの優しそうな女性の姿が見えない。 てっきり、その女性も家に上がるものだと思っていたのに。 もし今見えてるリムジンの運転席に乗っているのなら、近くの駐車場に止めてくればいいだけだし……。「ニコニコ毒舌は……今アリアの相手をしてる……」「え?」「誰かさんのせいで……アリアは今荒れ狂ってる……。護身術を身に着けてる……アリアを無傷で抑えれるのは……ニコニコ毒舌くらい……。だから……置いてきた……」 アリスさんは俺が知りたかった内容を教えてくれたと同時に、知りたくもなかった内容まで教えてくれた。 ……あんな凶暴な女に、護身術とか教えるなよ……。 どう考えても被害者続出じゃないか……。 てか、今アリアが荒れ狂ってるのって、俺のせいと言うより、アリアを消化不良で気絶させたからじゃないのか……? つまり、アリスさんのせいだよな……? 俺はそう思ってアリスさんの事を見ると、アリスさんはニコッと笑った。 ……もしかして……。「あなた、端はなからこれが狙いでした……?」 改心の為に叩き潰してくれと言ったアリスさんが、アリアが荒れ狂ってる事を大して気にしていない事に違和感を感じた俺は、一つの仮説を思いついたため、アリスさんに尋ねてみた。「何の事……?」 アリスさんは俺の質問にわざとらしく、首を傾げる。 この様子から見るに、俺の仮説は当たってる気がした。 だから、その仮説をアリスさんに言ってみる。「アリアを叩き潰したとしても、アリアがそう簡単に改心するはずが無いから、あいつの怒りを俺に集める事によって、他の人間に被害を出させない様にしたんじゃないでしょうね……?」「アリアを改心させてほしかったけど……カイには無理そうだったからね……。その辺の話も……きちんとする……」 俺はアリスさんの言葉に頭を抱える。 この人は一体、俺と取引した時にどれだけ先の事を見通してたんだ……。「お兄ちゃん、お客さんだよね?」 俺が頭を抱えていると、急に俺のすぐ後ろから声が聞こえた。 俺はその言葉に、ゆっくりと後ろを振り向く。 そこには、ニコニコ笑顔の後ろに『ゴゴゴゴゴ』の効果音をつけた、桜ちゃんが立っていた。 え、この子いつから俺の後ろに立ってたの……?「その子なら……カイがドアを開けた時には……リビングらしき部屋のドアから……こっちを見てたよ……? カイの後ろに来たのは……今だけど……」 俺がダラダラと冷や汗を掻いていると、アリスさんが首を傾げながらそう答えた。 え……それって、最初から見られてたって事じゃん……。 俺達の話、聞こえてないよな……? いやそれよりも、この子俺が嘘ついてアリスさんを迎えに行こうとした事に、気付いてたの……? 俺がそう思って桜ちゃんの顔を見ると、桜ちゃんはニコッと笑った。「桜、嘘をつく人は嫌いって言ってたのに、どうしてお兄ちゃんは嘘をついたのかな? 何かやましい気持ちでもあるのかな?」 桜ちゃんは笑顔のまま俺の顔を見ていて、俺はどう答えたものか頭を悩ませる。 本当にこの桜ちゃんが降臨なさった時は、凄く怖い……。 いつもの天使桜ちゃんはどこへやら……。「べ、別にやましい気持ちがあったわけじゃないぞ?」「……」 俺が冷や汗を掻きながらそう答えると、桜ちゃんは俺の顔をジーっと見つめてきた。 そのまま十秒ほどたった頃、桜ちゃんが苦笑いを浮かべた。