顔を上げたレイヴが目にしたものは……一体いつの間に出したのか、大剣を構えるラズベリーベルの姿。「……うちは、震えたことも、泣いたこともある。なんでかわかるか?」 ラズベリーベルは、丸腰となったレイヴを前に、無慈悲にも《龍王剣術》を準備し始めながら語り掛けた。「なんで……」「勝ちたいからや。理由なんてあらへん。勝ちたい。絶対に勝ちたい。勝ちたくて勝ちたくて勝ちたくて、もう死ぬほど勝ちたくて、死に物狂いで頑張るからや」 《龍王剣術》の準備が終わる。 レイヴは、剣を拾うことも忘れ、ラズベリーベルの言葉をただぼうっと聞いていた。「天才言うのはな、あんたはんの考えてるような、なんでもかんでも余裕でできてまう冷めたやつやあらへんで。なんぼ負けても悔しくても、勝つために全てを賭けられる人や。強く強く、誰よりも強く、勝ちたいと思える人や」「……!!」 瞬間、レイヴは自分のことが途轍もなく恥ずかしくなった。 思えば、全てを賭けて一生懸命に頑張ったことなど、一度もない。 余裕なく必死に頑張ることが、何処か格好の悪いことだと思っていたのだ。 今、この時、インベントリから二本目の長剣を取り出さなかった自分を悔いなければならない。 今、この時、弾き落とされた長剣を決死の思いで拾いに行かない自分を恥じなければならない。 勘違いをしていた。 セカンド三冠は、なんでも余裕でできてしまうから、天才なのではない。 誰よりも勝ちたいと強く思い、全てを賭けることができるからこそ、天才なのだ。「ほな……終わりや」 ラズベリーベルは最後に一言だけ口にして、大剣による《龍王剣術》を振り下ろす。 いくらステータス差があろうと、これを直撃してしまっては、ひとたまりもない。 負けた。 真剣勝負で、大勢の人前で、初めて負けた。 自分の全てが否定されるような、とても耐えがたい感情。 悔しい。恥ずかしい。そして、死ぬほど痛い。 数時間経って、泣くだろう。数日経って、震えるだろう。 なのに、どうしてか……彼の気持ちは、なんとも清々しいものだった。「ありがとう御座いました」 ――彼女は、会わせてくれた。間接的に、僕の憧れの人に、会わせてくれたのだ。 こうして、彼の初めての一閃座戦は、感謝の言葉と共に、その幕を下ろした。