「あー、もう。精神的に疲れたわぁー……目覚めすっきりなのに疲れたぁー」「ああいう場はこれから遠慮しようか。僕らにはまだ少し早いみたいだ」 そう提案をすると寝ぐせをつけたエルフは力無く頷き、甘えるよう肩へぐにゃりと頭を乗せてくる。寝起きの体温を覚えつつ、彼女の背をぽんぽん叩いて慰めた。 昨夜、夢の世界で英気を養うための歓待を受けたのだが……やはり注目を受けると面倒で仕方ない。食事を楽しむ間もなく声をかけられ、おまけに外見は少年少女なのでお酒も気軽に楽しめない。 これでもし僕の能力、日本と往復できることを知られたら……うん、恐ろしくて考えたくも無いね。 と、そのときキッチンからピーピーとお米の炊ける音が響いてきた。「さて、言い伝えによると朝ごはんを食べれば妖精さんは元気が出るらしいね。一緒に試してみないかな?」「お米たべたい……あとふりかけ。目玉焼きとベーコン、お茶もあると嬉しいの」 長耳を垂らし、ぐりぐりと甘えてくる少女は可愛らしい。青森旅行以来、朝食にも炊飯器の活躍することが増えてきた。日によってはパンへ変わるが、どうやらエルフさんは米の甘みが好きらしい。 ぺたりとフローリングへ降り、そしてキッチンに向かう。 今日は月曜日であり、月曜日であり、月曜日なのだ……おっと、僕まで元気が無くなるところだったよ。 せめて夕飯には美味しいものを作らないといけないね。 夢のなかでたびたび少女はフルーツを求めていたし、デザートがあっても良いと思う。そして元気の出る料理といえば……。ぴんと浮かぶものがあったので、帰り道には材料を仕入れるとしよう。 かちんと手鍋に火をつけたとき、ふと別のことを思いついた。「そういえば、火の精霊はこの世界でもコンロ代わりにできるのかな」「うーん、どうかしら。少しだけ気性が荒いから心配だわ。もう少し慣れてからにしたいわね」 ひょこりとベッドから降り、こちらへ歩きつつマリーは答える。黒猫はベッドに丸まっており、向こうの世界で僕らを隠すという仕事をしているので今日は1日静かだろう。